短編小説

□夢見る少女は悪夢を見るか
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サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、それでも俺がいつまでサンタなどという想像上の赤服じーさんを信じていたかと言うとこれは確信を持って言えるが最初から信じてなどいなかった。


―――なんて事を、以前どこかで述べた気がするのだが、同じ環境の下で育った筈の我が妹は違った。

幼い頃から、クリスマスにしか働かないじーさんの存在を信じ続け、小学5年生になった今でもその信じる心は健在だ。

毎年12月になると、部屋をクリスマス仕様に模様変えをし、ツリーを飾り、そして、枕元には靴下とサンタクロースへの手紙を律儀に用意している。
クリスマスの一週間前には既に当日の様な準備が完了していた。

「サンタさん、まだかな〜?あわてんぼうさんかもしれないから、いつでも来れるようにしとかないとねっ!」
「ははっ、まだ一週間あるぞ?」

毎年繰り返される兄妹の会話。

それは例年とあまり変わりが無く、だから俺は、クリスマスという親の財布を軽くしてしまう一大イベントは普通に過ぎて行くばかりだと思っていた。


のだが。



12月24日。

昨日、父さんは急な出張の為、東京へと飛んだ。
今年は母さんが頑張るのか、などと思っていたら。
午前11時。
我が家に一本の電話が入った。

「はい、もしもし―――え?うん……分かった。すぐにそっちに向かうから。」

呑気な母さんに似合わない深刻な声がリビングに響く。
なんとなく状況を察した俺は、母さんに尋ねる。

「何か、あったのか……?」
母さんは、不安の色を帯びた溜息をつく。

「田舎のおばあちゃんが、ギックリ腰になったみたいなの……。で、今家には誰もいないみたいだから、ちょっとお母さんが行って来るわ。」
「あ、ああ……。お大事にって伝えておいてくれ。」
「うん……キョンくん、あのね、今日の夜の事なんだけど……」
「あ、ああ……分かってる。任せてくれ。」

俺が頷くと、母さんは急いで身支度をして出掛けて行った。

こんな経緯で、俺はサンタクロース役になったのだ。
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