短編小説
□古泉一樹の作戦
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「キョンくんは涼宮さんがお好きなんですか?」
いきなりの質問に時間が止まった。俺とハルヒの。
部室の空気も急に緊張感のある物へと変わる。
朝比奈さんは、俺の予想通りの「え…あのっ、えっと…え?」なんていう困りボイスを発している。
古泉は笑顔。しかし、その瞳には鋭い光が宿っていた。
長門は、意外な事に本を閉じてこっちを見ている。
この事から、何か穏やかではない事が起こると察せられる。
ハルヒ…は、どこを見ていいか分からないという風に、視線を泳がせている。
さて…どう答えたものか。
「す、好きか嫌いかと聞かれたら勿論好きだが…っていうか何故急にそんな事を聞くんだ、古泉!」
我ながら話を上手い方向に持っていったと思う。
恋愛感情での意味を誤魔化しつつも“好き”という言葉には肯定しておき、さらに話題をそらす。これでどうだ!
しかし、古泉にそんな手は通用しなかった。
「僕が聞きたいのは、あなたが涼宮さんに恋愛感情を抱いているのかどうか、という事です。そしてこれは、僕の気持ちにも大いに関わって来るのです。」
それって、まさか。
「はい。そのまさかですよ。僕は涼宮さんを一人の女性として愛しています。そして、僕は涼宮さんにお付き合いを願いたいと思うのですが、親友であるあなたとはフェアにいきたいのです。」
………。物凄い告白の台詞をさらっと言ったな、古泉よ。
「どうです?あなたも彼女が好きなのではありませんか?」
「なっ…!ばか、んな訳…。」
口が滑って、気持ちとは正反対の言葉を吐き出してしまった。
何をやっているんだ、俺は。
すると、古泉は口に浮かべる笑みを消し、妙に顔を近付けて、
「ならば、もうこれは僕と涼宮さんの問題と考えてもいいんですね。遠慮なく、行かせていただきますよ?」
俺がああ、とかうう、とか唸っているのをどう取ったのか、古泉はハルヒの方へと歩みを進める。
そして、ハルヒの手を取り、
「少し廊下で話しましょう、涼宮さん。なるべく手短に済ませますので。」
と、いつものスマイルをハルヒに向け、呆然としているハルヒを廊下へと誘導した。
部室の扉が閉まる瞬間に見た、ハルヒの助けを求める様な表情と、いつもと違う意地の悪い笑みを浮かべる古泉が、今でも妙に記憶に焼き付いている。