短編小説

□妹と俺とテディベア。
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忘れかけてた記憶。
いつの頃だったか。

俺が小学生で、妹はまだ幼稚園だっただろうか?

曖昧な記憶のカケラ。
だが、蘇ってくる出来事の一つひとつは鮮明で―――



「おにいちゃ〜んっ、いっしょにあそぼ?」

玄関で靴紐を調整している俺に話しかける妹。

ああ、この頃はまだ“おにいちゃん”と呼んでくれていたんだな、妹よ。

俺は、ちら、と横に置いてあるサッカーボールに目をやり答える。

「おれ、サッカーしに行くんだけど………」

「じゃあわたしもいく!」

妹はいつもこうだった。

こうして、俺がサッカーに行くと言っても。

俺がカブトムシを捕まえに行くと言った時だってついて来た。

虫、苦手なくせに。

だから、そんな妹を置いて行く時は心が痛むんだ。

「だめだ。お前じゃまだ危ないと思うぞ?ほら、いっしょに遊んでやるから。」

だから、ついついこんな言葉が出てしまう。

「じゃあ、おにんぎょうであそびたい〜」

「ん、人形か。いいぞ。」

そう言うと、妹はぱぁっと表情を輝かせる。

「おにいちゃんっ、は〜や〜く〜っ!」

俺の手をぐいぐいと引っ張り、子ども部屋まで駆け足。

この頃は、部屋も同じだった。

遊ぶのも、歯磨きするのも、寝るのも、殆どいつも一緒。

近所のおばさん達には、
「仲の良い兄妹ね。」
と、微笑ましいという目でよく見られた物だ。

そりゃあ喧嘩だってした。けれど、

「ふえぇ〜んっ!おに、ちゃ、ひくっ、ごめ、なさ……」

これだ。
俺は、これに弱いのだ。

例え、俺が100%悪い時だって、妹は俺に許しを請う。

何の穢れも無い、純粋な心。

だから、抱きしめてしまう。
だから、頭を撫でてしまう。

「ごめん、な。」

と。
捻くれた俺の心さえ、素直にしてしまうんだ。
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