短編小説

□かみさまがくれたもの
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それは、雨の日だった。
なんて事はない、少し憂鬱な普通の日。
授業から開放された生徒達がわらわらと帰宅の道を辿る放課後。
僕はその中のちっぽけな一人の男子生徒でしかなかった。
自分は『特別』なんかではないと気づき、虚しさと共に受け入れた。
日常の生活もそれなりに好きだったし、友達だっている。
だから、非日常的な出来事に憧れるのはただの無い物ねだりなんだ。きっと。
……少し、退屈で、物足りなくはあったけど。
その物足りなさを埋める方法も思いつかないので、明日がある、時間は沢山あるんだと自分に言い聞かせて今日も一日平穏に過ごした。
学校への通学路を往復し、ご飯を食べ、お風呂に入り、歯磨きをし、先生に出された課題なんかを済ませてから明日の準備。そして就寝。

ところで最近、頻繁に同じ夢を見る。
一人の少女が登場する夢。
“こんな世界、つまらない”
彼女はそう言って、世界を灰色に染め、破壊する。
そして寂しげな瞳を向け、僕に問い掛けるんだ。
“あんたもそう思わない?”
何時も、そこで目が醒める。彼女の問いへの解答は見付からないまま。
あの少女は何なのだろう。夢は見る人の心理を表すと言うし、僕の願望が具現化してあの少女が生まれたのだろうか。
などと真剣に考えてから頭を振る。
所詮、夢は夢なのだ。
馬鹿げた事を考えている暇はない。学生の朝は短いのだ。
時計の針を見ると、時刻は8時を過ぎていた。
遅刻遅刻……などと慌てる姿は、どうしようもない程普通の中学生だ。
はぁ、と溜息を一つつく。
しかし、平凡的な日常は、不可解な能力により消失した。
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