短編小説

□かみさまがくれたもの
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「はは……これは、笑う所でしょうか。」
先程まで歩いていた通行人が一人残らず消えている。
……いや、消えたのは自分かも知れないな。
だって、明らかにこの世界はおかしいじゃないか。

灰色、灰色、灰色。

一面を覆うこの色には気が滅入る。
僕にとって、憂鬱を象徴する色だから。
はぁ、と溜息を一つつく。最近の僕は溜息が増えたな、などと皮肉めいた笑いと共に。
動揺、驚愕などといった感情は持ち合わせなかった。
なぜなら、僕がいる世界は何時も灰色だったから。色褪せた世界。
それに、夢に見ていたあの空間に似ているのだ。
人の姿は無いかと、辺りを見回す。
何となく、普通の人がこの世界に存在していない事は解ってるが、僕が探したのはあの少女だ。
まるで、女神みたいなあの少女。
その少女はすぐに見付かった。
道路の真ん中に虚ろな瞳で立ち尽くしている。
ゆっくり近付こうと試みたが、その虚ろな瞳に光が戻った。
何か、決意を決めた様な光の色。
ぞっとする位綺麗な瞳に恐怖すら覚える。
とてつもなく嫌な予感がしたので、彼女の腕を優しくだが掴む。
しかし、それは手加減無しの力で振り払われた。
拒絶。
「ま、待って下さい…っ!」
引き止めようとしたが、彼女は素早く駆けて行った。

瞬間、
世界が崩れる。

―――ああ、正夢だったんだ。

呆然とそんな事を思う。
そして、同時に。
ちょっとしたスペクタクルだな、と。
少し……ほんの少しだが、この状況を楽しんでいる自分がいた。
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