短編小説

□かみさまがくれたもの
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ああ、世界が崩れていく。馬鹿でかい化け物が、近くのビルを分裂させ、そのまま暴走は加速する。
その様子をぼうっと眺めたまま動けない僕。その頭上には、ビルか何かだったコンクリートが落下して来ようとしていた。
恐怖。
この時初めて、死という冷たい恐ろしさを感じた。
「こんな所で何をぼうっと立っているのですっ!?」
赤い光……いや、違う。
若い女性、だ。
僕の腕を掴み、引っ張ってくれたらしい。
さっきまで僕がいた場所は、コンクリートに埋められていた。
彼女がここに来なかった場合を考えると……ぞっとする。
「……有難う、御座いました。」
「礼には及ばないわ。……あなた、名前は?」
「古泉、一樹です……。」
「古泉、ね。あなた、何故自分がここにいるか解る?」
解る訳がない。僕は今、学校に向かう途中で。意味も解らないまま、気がついたらこの空間に……。
……と、言いたい所ではあったが、今の僕にはこの状況が理解出来てしまう。
何故解るのか?と聞かれても解る物は解るのだから仕方が無い、としか言い様が無い。
一人の少女によって作られる『閉鎖空間』。
そこで暴れるあの化け物を倒して世界を守るのが僕達の役目。
……なんだ、この漫画的、アニメ的設定は。
僕の頭がおかしくなったのか。それとも、この世界がおかしいのか。
「……古泉、あなたの心情も大体察する事が出来るわ。……私も、正直困惑しているの。」
「……とりあえず、あなたの名前をお聞かせ願えますか?」
年齢不詳の彼女は、ああ、と気が付いた様な声を上げる。
「失礼。人に名前を聞く時は、本来ならば自分から名乗るべきでしたね。森、と呼んで下さい。」
「森さん、ですね。解りました。」
こんな会話をしている間に、化け物がこちらに向かってきた。
「ど、どうしましょう……森さん…っ」
「戦うしか、ないですよ、古泉……」
そうは言うものの、戦う術も知らない。
感覚では解るが、果たして実践しても大丈夫なのか。
躊躇している内にもあの化け物は迫って来る。

怖い、こわい……、来るな…っ!

そう願って目をつぶった瞬間、化け物が倒れる音がした。

「お二人共、大丈夫ですか?……お迎えに上がりました。ご同行、願えますでしょうか?」
初老位の男性が僕達に手を差し延べる。
僕達はその言葉に従い、黒塗りのタクシーで男性に着いて行った。

それが、『機関』の方々との出会いだった。
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