短編小説
□夏祭り短編。
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*かき氷*
「おっちゃん、私、レモン味ね!あ、山盛りでお願い!」
「じゃあ、私はピーチでお願いしますっ。」
「……ブルーハワイ。」
「では僕は、メロンで。」
「じゃあ俺は…苺。」
祭り当日、待ち合わせ場所に最後に着いた俺は、皆にかき氷を奢る羽目となっていた。
1人200円だから、5人で1000円、か。
氷を削る爽やかな音とは裏腹に、少し憂鬱になる俺。
ちら、と横を見ると既に大盛りのかき氷を受け取り、向日葵の様な笑顔を浮かべているハルヒと物珍しげにかき氷を作るおじさんを眺める朝比奈さん。
古泉は何時もと変わらず、かき氷にも負けない爽やかさで微笑んでいる。
ん、長門は……
姿を見回すが見当たらない。
まさか、はぐれたか?いや、まさかな。
などと考えていると、後ろから浴衣の袖をくんっ、と引っ張られる。
「ん…長門、どうした?何か欲しいものでもあったか?」
しばし沈黙。
「……何でもない。」
「?……そうか。」
そう…、と長門が言ったところで会話は終わる。普段なら。
「……大丈夫?」
「…え、あ、ああ…。」
財布を指差し尋ねてきた長門。少ない財布の中身を気遣ってくれたのだ。
そういえば、合宿のトランプで俺が負けた時も、長門は一番安いひやしあめを頼んできたっけか。
「……そう。」
今度こそ会話は終了。
かき氷を受け取ってから俺はおじさんに1000円札を渡す。
「はい、200円おつりだよ。」
おじさんはにかっ、と人懐っこい笑顔で200円を俺に渡してくる。
「え、でも……」
「いいから取っておきな。あのお嬢さんにでも何か買ってあげるといい。」
そう言っておじさんは俺ちら、と後ろに居る長門に目をやる。さっきの会話を聞いていたのだろうか。
「は、はぁ……じゃあ、有り難く頂きます。」
俺は200円を握り締め、早く行くわよ!と叫びつつ走り始めたハルヒと団員3人を追った。