短編小説

□秋桜
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翌日の昼休みの事だ。
珍しく長門が俺の教室に訪ねてきた。

因みにハルヒは食堂に行ったので不在だ。

「教室に訪ねて来るなんて珍しいな。……長門、どうしたんだ?」

長門は小さな声で言う。

「……場所。」

「へ?」

なんとか聞き取れはしたものの、何を意図するのか判断が出来なかった俺は間抜けな声を出してしまう。

「今日の放課後に花見をする場所を教えて欲しい。」

淡々と長門は言う。

「あ、ああ……花見の場所の事か。」

俺は場所を教えてやる。すると長門は、

「ありがとう。」

とだけ言い、走って行った。

「お、おい、長門!?」

長門は何処へ向かうつもりなのか……今の会話からして花見の場所だろう。
why?何故?
それは解らないが、長門を放っておく訳には行かない。

走って行く長門を追い掛ける。

「はぁ…っ、早…っ!」

長門に着いて行くのに精一杯で、上履きを履き変えずに来てしまった。

いや、実際は長門に着いて行けてなかったのだが。
目的地は分かっていたので長門の元へと辿り着く事が出来た。


―――そこで目にしたのは。

周りに沢山の木々がある。その中でただ一本、一番大きな木。

その木だけ、桜が満開だったのだ。

「え……!?」

確か、昨日は何の異常もなかったよな…と思い出してみる。
だとすると、やはりハルヒが願ったから…だろうか。

長門はその木に寄り添って、両手で木に触れる。

さあっ、と風も吹いていないのに木は揺れ、花びらは散ってゆく。
残った僅かな花びらもかさかさと音を立てて腐っていき、地面に落ち、瞬く間に土に還る。

「……情報を修復する。」

長門が高速呪文を唱えると、完全に周りの桜と同じ状態へと戻った。

「……な、がと…」

俺が呼ぶと、はっとしたように長門は振り返る。

「……見ていたの?」

「あ、ああ……もしかして、マズかったか?」

長門は一瞬言葉に詰まった。ように見えた。

「問題はない。」

そう答える長門の瞳はどこか寂しそうだ。

そうだ、いつだったか同じような事があったな。
市内探索の途中で、存在する筈のない花があって、それを長門が枯らしていた。

それは、本来存在してはいけないのだから。

しかし、そうは言ってもこんな使命は辛い筈だ。

長門はぽつり、と言う。

「……花見、」

「……え?」

「……私も楽しみにしていた。」

少し残念、と呟く。


対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス、長門有希。
彼女にも、“残念”という概念……感情が芽生えている。

俺にとって、それは嬉しい事でもあったが、寂しそうな長門を見ると心が傷んだ。

俺は、長門に何もしてやれないのだろうか?
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