短編小説
□秋桜
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「……まあ、桜が咲いてないのはしょうがないわよね。」
ビニールシートを敷き、木を見上げてから溜息をつくハルヒ。
しかし、残念そうな表情を見せたのは一瞬で、朝比奈さんがクッキーを差し出せば嬉しそうに齧りつく。
暫くすると、のんびりする事にも飽きたのか、持参してきたバドミントンセットを取り出し、ラケットを1本朝比奈さんに渡す。
「みくるちゃん、勝負よ!」
「ふえぇぇっ!?」
「では、僕が審判を致しますよ。」
全然勝負になってない試合を二人は繰り広げる。
時々、古泉が朝比奈さんにコツを教えてあげたりしているようだ。
長門はというと、ビニールシートの上で桜の木を見上げたまんまぼんやりとしている。
表情こそいつもと変わらないが、俺には分かる。
何の罪もない長門があの桜の木に対して罪悪感を感じている事と、純粋に、桜の花が咲いていないのを悲しんでいる心が。
俺にはどうしてやる事も出来ない。
出来ないのかも知れないが……
こんなの気休めだ、と思いつつも花を一輪摘む。
「長門、」
差し出したのは、ピンクのコスモス。
長門は首を傾げる。
「これ、やるよ。……コスモスって、秋の桜とも言うだろう?」
長門は俺の顔とコスモスをじ、と見つめる。
「……ありがとう。」
暫くして、長門はようやく言葉を発す。
表情を窺えば、いつもより幾らか柔らかい表情……俺から見ると、微笑んでいるように感じられた。