短編小説

□ゆびきりCloveR
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嘘だろ。こんな事態になるのはもう少し先の事だと思っていたのに。
そこは、あの殺風景な閉鎖空間と同一とは思えない程あたたかな場所だった。
辺りを見回すと、一面の緑と可愛らしい花々。菫や蓮華……だろうか。生憎花には詳しくないのでよく解らん。
耳を澄ませているとさらさらとした音が聞こえてきたので、その方向に振り向けば小川があった。なんだ、この懐かしい感じは。
そうだ、小学校の音楽の時間でこんな風景を描いた曲があった気がする。有名な曲だし、ハルヒも知っているんだろう。ならばその曲がこの新閉鎖空間のイメージだと考えても良いだろうか。
……やめだ、やめ。
俺が分析した所で状況が変わるとも思えん。そういうのは長門や古泉の役割だ。俺の役割は他にある。
この空間にハルヒもいるんじゃないか?そう思い適当に歩いてみた。
すると、そこには真っ白なワンピースを身に纏い……黄色いカチューシャをつけた一人の少女がしゃがみ込んでいた。
ただしハルヒより小さい。小学校高学年位だろうか?髪の長さが高校入学当時のハルヒのそれと同じに感じる。そっと背後から近寄り、声を掛けてみた。
「何してんだ?そんな所に座り込んでたら、服が汚れちまうぞ。」
もう少し気の利いた声の掛け方もあったのだろうが考えが及ばず、思ったままの事を口にする。
「……あんた、誰よ?」
顔だけ俺の方に向けた少女。ぶすっ、と不機嫌な表情を浮かべている姿がまた入学当時のハルヒと被る。
俺は素直に名を名乗るべきかと迷ったが、七夕でのアレを使う事にした。本名を名乗らない方が良いと思ったのは、ただの勘だ。
「俺は、ジョン・スミスって言うんだ。」
「変な名前。」
「……よく言われる。」
マズったかな、と思いつつ小さく溜息をつくと少女はくすっと笑った。
……中々可愛い笑顔じゃねぇか。
「あんた、変ね。」
「そういうお前は結構失礼だぞ?」
「ばか、変って言うのは褒めてるのよ。」
「まぁ、褒め言葉なのかは微妙だがありがとな。」
とりあえず礼を述べると少女はにかっと笑う。お、これは完全にハルヒスマイルだな。
「あんた、気に入ったわ!」
「そうかい。」
「私は、涼宮ハルヒって言うの。」
「……よろしくな。」
やっぱりこの少女はハルヒなのかと苦笑すると不思議そうな目でこちらを見上げてくる。俺はハルヒと目線を同じにするようにしゃがんでやった。
すると。
「あんた暇?絶対暇って顔してるわ。今から私に協力しなさい!」
出た、涼宮節。
抵抗しても無駄なのは分かっているし、古泉が言うところの“新閉鎖空間”を消滅させる手掛かりも掴めるだろうと思い、協力とやらをしてやる事にした。
「まぁいいが……一体何に協力しろって言うんだ?」
どんな突拍子のない事を言われるかと思いそれなりに覚悟をしていたが、予想に反して至って普通の事だった。
「私と一緒に、四つ葉のクローバーを探しなさい!」
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