短編小説
□喜緑江美里の分際
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「会長…今は煙草吸わないんですね。」
私がそう言うと会長は、
「お前、煙草嫌いだろ?」
と、当たり前の様に言う。
「ええ…まぁ。でも、無理に我慢しなくてもいいですよ。」
「ああ。…でも、そろそろ止めたいと思うんだ。煙草。」
「それはいいですね。」
「ああ。」
「………。」
「………。」
二人の間に沈黙が訪れる。
この沈黙さえ私には心地良い。
会長は私の頭に手をぽんっ、と乗せてからこう言った。
「お前さ…。もっと気楽にやればいいんじゃないか?詳しい事は聞いてねぇが、一応古泉からお前の事も聞いたんだ。…お前、自分の事“人間じゃない”って思ってるだろ。」
思ってるもなにも、その通りなんですけど。
とりあえずここは「ええ。」とだけ返事をしておく。
すると、会長は普段の表情からは予想出来ない程の優しい笑みを浮かべる。
その微笑みは、まっすぐに私へと向けられた。
「確かにお前の能力は他の大多数の人間とは少し違うな。でも、それだけだ。どこからどう見たってお前は“人間”だ。そして“女の子”なんだ。…その証拠にお前には心がある。」
会長はだいぶ照れている様だ。
ふふっ、やっぱり会長にはかなわないな。
「会長…私、女の子でいていいのでしょうか?」
「いいも何も、そうだろう?少なくとも俺は、そう思ってる。どっちかっていうと俺は古泉の方が人間じゃないと思うね。」
そんな事を言いながらも会長は彼の事を慕っているんですけどね。
本人には自覚がないみたい。