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□海のそばでの独り言
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フラれた。
こんな、色気も素っ気もないファミレスで。
バイト代のほとんどを、携帯とホテル代に注ぎ込む高校生じゃあるまいし、およそ大人の恋の終わりに、相応しい舞台とは思えない。
好きな子が出来た?
嘘ばっかり。
相思相愛でしょ?
もしかしたら…それ以上?
…今更どうだっていいか。
もう戻ってこないのに、問い質すのも馬鹿馬鹿しい。
無言でその言葉を聞いた。
涙も出なかった。
でもね、
元気でいろ、幸せになれ、
なんて、妙に気障な去り方をされるとね…やっぱり胸がギュッとくる。
結構、好きだったから。
…バイバイ、私の恋。
店を出たのは、それから数時間が経ってからだった。
店にいる間、私はお代わり無料のコーヒーを5回頼んで、ボーッと他人を観察していた。
ふたりで店に来て、四人掛けの席についたのに、隣同士で座る若いカップルや、食事をしながら、ずーっと店置きの漫画を読んで、一言も喋らないスウェットの二人組。
不自然だ。
まぁ、コーヒー飲んで人間ウォッチングしてる私だって、十二分に不自然だろうけど。
でも、不自然に見えるのに、どこか自然な感じがするのはなんでだろう。
きっと彼らの方が、今の私より絶対に自然だ。
そんなことを考えた数時間だった。
時計は夕刻を差している。
空は青とピンクの中間で、風に流れる雲の形が美しい。外気は爽やかに冷たくて、落ち込みそうな気分をすっきりとさせてくれそう、だった、
けど
――週末の、こんな時間に、私、一人で何をすればいいんだろう?
…そうだ、欲しいCDがあったっけ。でも、甘い歌を聞いて落ち込むのはイヤだな。
服でも買おうかな。でも特別、着飾る用事もなくなっちゃった。
じゃあ映画…も、一人じゃ見終わったあとが淋しいし…。
そこまで考えたら、歩く足が止まってしまった。
店を出て、自然と向かって来た雑踏で、通り過ぎる人の顔を見ながら、やることがない自分が、やたら虚しく思えた。
でもまだ、帰りたくない。
ぽつんと一人になったら、きっと悲しくなるから。
音のない部屋で声を聞いて
冷たいベッドで体温を感じて
…きっと、独り言とか言っちゃうから。
―あそこに行こう。
あそこなら、受け止めてくれる。声も涙も掻き消してくれる。
私は、賑やかな街並みに踵を返すと、一番近くにあったバス停から、その場所を目指すことにした。