神動四戦記
□一章
3ページ/11ページ
「いやー、やはり、麗将軍の剣さばきには惚れ惚れいたしますなー!」
長い城内の廊下を麗伯と洵法は歩きながら言葉を交わしていた。
「いや、俺はただ兵達を育てる為にやっているだけだし…。しかも、鍛練に遅刻する将軍って、普通は格下げだろ。」
笑いながら麗伯は洵法へと返答する。
と、向こうに見える二つの影を見、二人は足を止めた。
彼らの見る先には、長髪で優しい目をしている人物が一人、女官と話している。
「斗陰(トイン)!」
麗伯はその長髪の人物に、何処か嬉さを含んだ声で話し掛けた。
斗陰がその声に振り返ると、麗伯は直ぐさま駆け寄った。
「鍛練が終わったんなら、一杯し「いけません!」
斗陰の横にいた女官がいきなり、声を張り上げた。
突然の展開に洵法と麗伯は口を開けないでいると、彼女から声があがった。
「斗陰様はまだ仕事があるんです。麗伯様のご勝手で、このお方の筆をとる手を止めさせないでください。」
まだ若い彼女は女官などでは無く、正式な軍師であり、洵法の後輩にあたる。
名を授春(ジュシュン)と言う。
「これ。授春、少し口を慎みなされ。麗将軍と斗将軍の仲を知らぬお前が、知れたような口をたたくでない。」
さすがの洵法も『いかん。』と思ってか、授春に一喝をいれた。
と言うもの、そこまで心が狭い訳ではない麗伯はニコリと笑顔を洵法に向けた。
「別に構わないさ。俺はこの女軍師さんに本当の事を言われたまでだし。」
「確かに…。授春の正解でもある。私達が幼馴染みであろうと、仕事とは別物だ。」
ようやく口を開いた斗陰。
授春をかばうか、麗伯をとるか、微妙な位置で二人の器量を伺う。
「そろそろ、軍議の刻にも近く…。この際、斗将軍もご一緒に参りましょう。」
展開の末が見えない内容に洵法がやんわりと終止符を打った。