novel-old

□※腕の中
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どうしてこんなことになったのだろう?
そう自分に問いかけてみても、答えは返ってこない。
強いて言うならば、『疲れていたから』。
それは自分はもちろん、相手もそうだったはずだ。

ソファですやすやと眠る愁一を見て、Kは大きく息を吐いた。
何も纏わない細い身体に自分の上着を被せてやりながら、1時間ほど前のことを思い返す。


「シューイチ!詞はまだか!」
勢いよく開けた扉の音と怒鳴り声に、机に向かっていた愁一がびくんと飛び上がった。
パイプ椅子に座ったまま胸元を抑えてそろりと振り返った表情は、明らかに疲れが滲んでいる。
「も、もうちょっと静かに入れねーのかよ!心臓止まるだろ!」
「心臓止めるならソレ書き上げてからにしてくだサーイ。さすがにもうできているであろうな?」
つかつかと歩み寄りながら威圧的に言うと、愁一が机の上に散らばる紙片を慌ててかき集めた。
「ええええーと、なんていうかまだ…あ、あと10分!」
「シャラップ!お主、先刻もそう言ってすでに54時間が経ってるのをわかっているのかね?」
「そ、それはそのー…えーと・・・うー・・・あーもう、眠くて頭働かねー…」
おもむろに眠気覚ましのドリンク剤に伸びた愁一の腕を、Kが無駄のない動きで止める。
「…何本目だ?飲み過ぎは毒だぞ」
掴んだ腕越しに見える机の上には、蓋の開いたドリンク剤のビンが乱雑に転がっていた。
「だってもう眠くて…詞…由貴が…詞を…ねむ…」
今にも眠ってしまいそうな愁一が、なんとか意識をはっきりさせようと口を開くが、最早支離滅裂だ。
「何を言っているかわからんぞ」
「ん…わかってる…」
椅子の背に身体を沈ませながらも寝てはいけないという気持ちはあるのか、とろんとした瞳で机の上を見つめる愁一の腕を、少し強めに掴み直した。
「ユキさんが待っているのだろう?さっさと仕上げて帰ってイチャつけばよいではないか」
「…やだ。今すぐイチャつきたい」
『だから、もう帰りたい』。見上げられた瞳からそう続くであろう言葉は予想できたはずなのに、寝不足と過労で疲れた思考で、Kは不覚にも錯覚してしまったのである。
愁一が求めている相手が、自分なのだと。
「……シューイチ」
掴んだ腕はそのままに、もう片方の手で後頭部を引き寄せる。
ぼんやりしたままの愁一は、予想以上に簡単に従った。
「……ん…?」
小さく漏れた声色から、まだ夢の世界と現実の間を彷徨っているであろうことが伺える。
唇を合わせている今の状況を果たして理解しているのかは読み取れなかった。
掴んだ腕を離しても、拒否するわけでもなく、ただ為されるままに薄い唇を開く。
「ん…、ふ…ぅ…」
興味なのか好奇なのか、それとも欲求なのかわからないまま、Kは愁一のズボンの前を開いた。
身を屈め、パイプ椅子に座ったままの愁一の足元に膝を付き、そこに顔を寄せる。
愁一が完全に正気に戻るより先に自分のペースに引き込んでしまおうと思ったあたり、後から思えば相当疲れていたのかもしれない。
「・・・K?・・・え、ちょっ・・・」
「・・・タレントの欲求を解消するのも、マネジャーの仕事だ」
「んっ・・・!」
僅かに硬くなっているそこを躊躇なく一気に咥え込み、下着ごとズボンを太ももまで下げていく。
漏れる吐息が疲れた頭に酷く心地よくて、もっと知らない顔を見たいという気持ちが自分の中に育つのを感じた。
「あ、んっ・・・ン、んんっ!」
暫く根元から先端を口内で扱くと、びくんと身体が跳ね、一際切なげな声が上がった。
それと同時に放たれた白濁がじわりと喉奥を通る。
唇を離せばまだぴくぴくと震えて蜜を零す先端との間に白い糸が繋がり、とろりと伝った。
ぐったりと背もたれに身体を預ける愁一の瞳は虚ろで、力ない呼吸を繰り返しているばかり。
そしてK自身も、この状況は夢なのだと心のどこかで思い始めていた。
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