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□涙サプライズ
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4月15日 PM10:00
収録、取材、打ち合わせと、マネージャーに連れ回されるままに仕事をこなして、気付けばすっかり日は暮れていた。
Kが運転する車の後部座席に、本日の仕事を終えたBAD LUCkの3人が並ぶ。
ドアに凭れて眠っている愁一を一瞥して、浩司と順は目配せをした。
明日は、愁一の誕生日。
当の本人は、どうやら今のところそのことを忘れているらしい。
「・・・藤崎、どうする?」
「そうですねぇ・・・とりあえずKさん、わかってますよね?」
「オフコース。目指すは本社デース!」
「Kさん、静かに!愁一が起きちゃいますって!」
「中野さんも声大きいですよ!自宅に向かってないことがバレたらややこしいんですから!」
「・・・んぅ・・・・」
「「「!!!」」」
咄嗟に呼吸を止めた3人の視線が、愁一に集まる。
間もなくして再び聞こえてきた心地よい寝息に、ほっと胸を撫で下ろした。
「・・・Kさん、量間違えてないですよね・・・?」
運転席に身を乗り出して心配そうに問いかける浩司に、Kが不敵な笑みを浮かべた。
「間違うべくもない。ミリオスモル単位まで完璧に計ったからな」
「なんですかそのマイナーな単位・・・ここで起きても困りますけど、ずっと起きないのも困るんですからね」
同じく身を乗り出した順が、いつになく緊張した面持ちでKを睨む。
「わかっておる。本社につく頃から徐々に覚醒する計算だ。あの薬の効果は偉大だ」
「そんな薬・・・飲んで大丈夫なのか・・・?」
ゆっくりと身体を背もたれに戻しながら呟いた浩司の言葉に同意した順が、ちらりと愁一に目をやる。
「・・・すべては作戦の為ですよ、中野さん」
「・・・そうだな藤崎、やるしかないよな」
「心は決まったか?恋する少年たちよ!さぁ、レッツパーティー!!」
満面の笑みで振り返るKの熱い掛け声が車内に響く。
「前見てください、前っ!それにアンタも恋する少年の1人でしょうが!!」
「少年というには無理があります!っていうか大声出すなってさっきから言ってるじゃないですか!!」
「・・・・んんー・・・」
「「「!!!」」」
・・・その後の車内で口を開くものは、誰もいなかった。

そう、ここにいる3人は愁一に恋する男たち。
とは言っても、今さら愁一とどうこうなりたい等とは思っていない。
愁一の溢れんばかりの愛が誰に向けられているのかも、またその相手にはどうやっても適う筈がないということを痛いくらいに分かっているからだ。
それでも、ほんの少しの邪魔をするべく男たちは今日という日に立ち上がったのである。

目標:由貴瑛里よりも先に愁一の誕生日を祝う!

4月15日 PM11:00
「・・・あれ?オレ、寝てた・・・?」
本社の駐車場に停車したと同時に、愁一が目を覚ました。
薬とKの威力に関心しながらも、先に車を降りた順が愁一側のドアを開け、浩司が車内から降りるように促す。
「ん〜・・・なんかすげぇ眠い・・・」
ふらふらと外に出た愁一を軽く支えながら、まだ半分寝ぼけている様子に安心して、そのまま社内の一室へと向かった。
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