novel-old

□※Friend
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いつもより元気がないことに気づいていたのは、きっと自分だけだろう。

「愁一、なんかあったのか?」
歌番組の収録が終わり、控え室で帰る支度をしながら声をかけた。
言われた本人はきょとんとして浩司を見る。
「・・・え?なんで?」
「ん、なんか元気ねぇみたいだから。由貴さんとなんかあったのか?」
「すげーヒロ・・・なんでわかんの?」
尊敬のまなざしで見つめられ、なんとなく照れくさくて目を逸らした。
「なんとなくね。・・・で、どーした?またケンカでもしたか?」
「ケンカじゃないけど・・由貴、今日仕事で帰ってこないんだって」
寂しそうにそう言って俯く愁一を、今度は浩司が唖然として見つめる。
「・・・まさか、それだけ?」
「そっ、それだけってなんだよ!明日の夜まで由貴に会えないんだぞ!?今日家に帰っても由貴がいないんだぞー!!」
「あーはいはいわかった、悪かった。・・・ったく」
急に泣き叫び出した愁一を笑顔でなだめ、ため息をついた。
調子が悪いときや元気がないときは、誰よりも早く気が付くことができる。
考えていることもなんとなくわかるし、自分がどうすれば愁一が喜ぶのかも知っている。

・・・ただ、由貴瑛里が絡むと途端にわからないことだらけだ。
現に自分が思っているよりもっとずっと、愁一の中での彼の存在は大きなものとなっているらしい。
2人で暮らす家に帰ってから、どんな会話をするのか、何をして過ごすのか、まったくわからない。
そう思うと、自然と苛立ちが芽生えた。
それは、親友のことを理解しきれていない自分に対するものなのか。
・・・それとも、ずっと一緒にいた愁一を横取りされたことへの嫉妬心なのだろうか。

「・・・だからさぁ、帰ってもどうせ由貴いないんだなーって思うと仕事終わるの寂しくてさ」
愁一はぽつりとそう言うと、小さく肩を落としてバックの紐を握り締める。
そんな姿が、以前とは別人のように見えた。
「・・・じゃあ、うち来るか?」
思わずそう言うと、沈んでいた顔に笑顔が戻った。
「・・・ホント?いいの?」
「いいよ、別に。俺だってどうせ帰っても一人だしね」
「やったぁ!ありがと、ヒロー!!」
荷物を手に取りドアへ向かう姿を見ながら、いつもの元気が戻ったことに小さく微笑んだ。


「うわー、なんかここ来んの久しぶり・・・」
「そういえばそうだよなぁ。でも、変わってないだろ?」
キョロキョロと部屋を見回す愁一にお茶を出してやり、浩司はソファに腰掛けた。
「んー、変わってはないけど・・・でも、俺の知らないCDとか本とか、いっぱい増えてる」
愁一は本やCDがずらりと並ぶ棚の前に座り込んで、中を覗き込む。
「これも知らないし、これも初めて見た・・・あ、これ知ってる!高校の時よく聞いてたよな」
「あーソレね。最近あんまり聞いてないかも。って、あんまり物色すんなよー」
ガサガサと棚を探る愁一は、他にも自分が知っているものを探しているようだった。
浩司は置いてあった煙草を取り出して、最後の一本になっていることに気がつく。
「愁一、ちょっと煙草買ってくるから」
「うん、わかったー」
物色に夢中で振り向きもせず答える愁一を見て自然と綻び、浩司は部屋を出た。

外に出た途端ひんやりと体を包み込んだ空気に小さく身震いをし、最寄のコンビニまで急ぐ。
一度振り返り、マンションの自分の部屋を見て、明かりがついていることにくすぐったさを感じた。
あの部屋に愁一がいると思うと、妙な優越感を覚えた。
つい、自分の所有物なのだと錯覚してしまう。
本当は、あの人のものなのに。

「あー、寒かった〜・・・あれ?愁一・・・?」
冷えた手を擦り合わせながら部屋に戻ると、先ほどの棚の前に愁一の姿はなかった。
ステレオからは高校のときによく聞いていた曲が流れていて、一瞬タイムスリップしたかのような感覚に陥ってしまう。
散らばったままのCDや本をまたぎ、きょろきょろと見渡してみると、部屋の端に置いてあるソファに丸くなって眠っているその姿を見つけて自然と安堵の溜息が零れた。
「おい、風邪ひくぞー」
小さく声をかけてみるが、反応はない。
「よくこんな短時間で熟睡できるな・・・」
ぐっすり眠っているところを起こすのも気が引け、浩司は寝室にあったタオルケットをそっとかけてやった。
「んぅ・・・・」
途端に愁一が小さく身じろいで寝返りをうつ。
横向きだった顔が、真上を向いた。
「・・・可愛いー顔しちゃって・・・」
無防備で熟睡する愁一を見下ろし、ふっと微笑む。
自分の中で妙な感情が湧き上るのを感じた。
(・・・触ってみたい、なんて)
思えば昔もこういうことがあったと思い返して、言いようのない懐かしさに襲われた。


それは、小学校低学年の頃。
2人で部屋で遊んでいたとき、浩司がゲームに夢中になっている間にふと気付くと愁一が床で寝入ってしまっていた。
ゲームにも飽き、遊び相手がいなくなってしまった浩司は退屈になり愁一を起こそうと近寄った。
「愁一、起きろよ」
呼びかけても返ってくるのは寝息ばかり。
頬をつねってみても、身体を揺すってみてもまったく瞳が開く気配がない。
「・・・つまんねーの・・・」
諦めて一息つき、愁一の隣に座り込む。
手持ち無沙汰でやることがなく、なんとなくその寝顔を見つめていた。
「睫毛、なが・・・」
改めてまじまじと見ているうちに、今さらだが女の子みたいな顔つきだと思ってしまう。
恋愛感情というものをまだ理解しているわけではなかったが、自分の中で何かが芽生えたような気がした。
意味もわからないまま、浩司はそっと顔を寄せ、唇を重ねた。
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