novel-old

□※「愛してる」
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「・・・・・・愁一?」

「・・・泊めて」

「・・・いいよ」

俺が約束もせずヒロの部屋を訪れる時の理由は、ひとつだけ。

「・・・由貴、仕事でずっと帰ってこないんだ」

「・・・ん」

二人の間では暗黙の了解。
ヒロも了承済み。
何も言わず、ベッドへ連れてってくれる。



「・・・・っ、はぁ・・・」

唇を重ね、荒々しく服を脱がされる。
ただ、求めるだけ。
愛なんて、そんなものはない。

もう何度目かもわからないこの行為は、いつも同じ手順。
新鮮さなんていらない。
この際、快楽もなくたっていい。

あの人がいない寂しささえ忘れられれば、それだけでいい。

「ん・・・っ、あ・・・」

ヒロの熱い肌に触れ、だんだん何も考えられなくなる。
ここからが、本当にキモチイイ。

手が下へ降りていって、直接触れられる。
一瞬小さく身を捩った俺を、ヒロがどんな顔で見ているのかはわからない。
俺は、目を閉じてあの人を思い浮かべる。

俺自身を愛撫していた手は後ろへと移動し、指がゆっくり埋め込まれる。

「・・・あ、ん・・ぅ・・・っ」

中で動かされて、まだ弱いけど確実な刺激に思わず腰が揺れる。
2本、3本と飲み込まれていくそこに、すべての神経が集中してるようなそんな感じ。

「も、いいから・・・はやく・・・」

我慢できず訴えると、カチャカチャとベルトを外す音がして、指のかわりに大きく熱いものが触れた。
触れただけで腰を進めようとしないので、不思議に思って目を開ける。

「・・・ヒロ?」

言うと同時に、唇をふさがれる。

「・・・・っ」

そのまま一気に貫かれ、必死にヒロの背中にしがみついた。

「・・・・あっ、は・・・っ・・・う・・・っ・・・!」

いつもと違う。

最中にキスなんかしたことない。

・・・なんで?

ねぇ、ヒロ。

「・・・いち・・・愁一・・・っ・・・」

なんで名前を呼ぶの?

いつもそんなことしないじゃん。

なんで・・・

そんなに悲しそうな目で俺を見るの・・・?

「あ・・・っ!や・・・ぁ、はぁ・・・・」

突き上げながら、何度も角度を変えてキスが降ってくる。

快楽と戸惑いで、ほんとにもう何もわからない。

こいつが何を考えてるのか、

俺は何を考えているのか。

「・・・愁一・・、・・・愛してるって言って?」

「・・・・え?・・・っは、あっ・・・」

「愛してるって・・・言って・・・?」

「な・・・んで・・・っ、・・・」

「頼むから・・・愛してるって・・・っ・・・」

「・・・っ、・・・はぁ・・・あ、・・・・愛してる・・・っ・・・」

「・・・俺も・・・俺も、愛してる・・・・・」

「あ、はぁっ、も、イく・・・っ!」

「いいよ・・・一緒に・・・っ、ぁ・・・っ!」


脱ぎ散らかした服をかき集めて着る俺の横で、ヒロが煙草を吸う。

さっきの顔はなに?

泣きそうな顔。

あんなの、初めて見た。

・・・「愛してる」って?

お前が俺を「愛してる」?

・・・俺がお前を「愛してる」?

ちがう。

そんなはずない。

俺が愛してるのは・・・


「愁一」

「・・・なに?」

「こんなん、もうやめよ」

「・・・・・」

「俺は・・・あの人にはなれない」

「ヒロ・・・・」

「・・・終わりにしよ。これ以上続けたら・・・本当に・・・」

聞こえるか聞こえないかくらいの声で、

『好きになっちゃうから・・・』

それっきり、うつむいた。

肩が小さく震えている。

「ヒ・・・」

とっさに差し伸べた手を、おろす。

触れたところで、どうにもならないことがわかっていたから。


そして俺は、静かに部屋を出た。


「・・・・さむ・・・」


ぽっかり開いた心の隙間に冷たい風が吹き付けている感じ。

あの人を忘れられなくてヒロに会いに来たのに、

今はヒロで頭がいっぱい。

忘れたい。

ヒロのあんな顔、忘れたい。

そうさせたのは俺なのに。

ずっと苦しめてたのは俺なのに・・・。

もう一度笑って言えるかな?

『愛してる』って。

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