novel-old

□※恋ゴコロ
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お互いの気持ちを確かめ合って、数日が過ぎた。
と言っても、ハッキリとした言葉を交わしたわけではない。
抱き締めた自分を拒まなくて、キスも受け入れてくれたのだから、これ以上の口約束は必要ないと思う。

「・・・でもなぁ」

ディアッカは休憩室のテーブルに肘を置いて、ため息を吐く。
この時間はほとんどの人間が食堂の方へ行くので、この場所にはディアッカ一人だ。

正直、先に進みたくて仕方ない。
そう思うのは恐らくディアッカのほうだけなのだろう。
イザークの態度は至って変わらないし、何度か人目を忍んで仕掛けるキスも、いつもこちらからだ。

「どう、思ってんのかな・・・」
「何がだ?」
「わあぁっ!?な、いつからそこに」
「今来たところだが・・・」

考えていた人物の突然の登場に飛び上がった心臓を宥めて、テーブルを挟んで向かい合って座るイザークを目で追う。
多少、疲れているのだろうか。
確かに今日の訓練は少し厳しくて、特にイザークは休む間もなく役割を任されていた。

「・・・飯、食った?」
「いや・・・食欲、なくてな」

そう言って、紙コップのコーヒーに口を付ける。

「・・・それじゃ胃に悪いぞ。来いよ、部屋に栄養ドリンクあったはずだから」
「あぁ・・・すまない」

いつもの勢いをすっかりなくしているイザークは、素直に頷くとディアッカの後を追って立ち上がった。


「ほら。これ飲めば少しはマシだろ」
「・・・やけに親切だな」

ぽん、と渡された瓶を受け取って、イザークは照れくさそうにそれを見つめる。
その態度が可愛くて、ついにディアッカは勝負に出てみることにした。

「そりゃあ・・・好きなヤツだし、当たり前だろ?」
「すっ・・・な、何を言って・・わ、あっ」

途端に顔を真っ赤にしたイザークが慌て、瓶が手から滑り落ちる。
咄嗟に受け止めようとしたのは、2人同時だった。

「・・・お前、慌てすぎ」
「貴様がヘンなことを言うから・・・っ!?あ・・・」

瓶が床に触れる直前で掴んだのはディアッカだったが、いつの間にか2人の距離は接近していて。
膝をついたままで顔を上げたイザークは、思いがけない至近距離に驚き、つい顔を背ける。
立ち上がる、という選択肢は思い浮かばないのか、真っ赤な顔のままのイザークに、ディアッカは手を伸ばした。

「なに・・・っん、ん・・・」

後頭部を引き寄せ、やや強引に唇を塞ぐ。
突然の出来事に一瞬目を見開いたイザークだったが、やがて弱々しくもディアッカの胸元に縋りついた。

「・・・っふ?ぅ、んっ、はぁ・・っ!」

閉じられている唇を舌で抉じ開け、侵入してみる。
初めての深い口付けに、縋る腕に力がこもった。
驚いて引っ込んでいる小さな舌を絡みとり、引きずり出す。
たどたどしく応えようとするのは、拒絶の仕方がわからないからだろう。

「んっ、ぁ・・・ふぁ・・・は・・・」

存分に咥内を犯して、離れたときにはもうイザークの身体の力は抜けきっていた。
縋っていた手はそのままに、へなへなと床に崩れ落ちる。

「イザーク・・・いい?」
「・・・?なに、が・・・」

まだぼんやりとしているイザークの耳元に唇を寄せそう呟くと、細い腰に手を回した。
そのまま形の良い尻に手のひらを這わせ、ぐ、と自分のほうへ引き寄せる。

「・・・っ!?」

自然と触れ合うのは、衣服越しのお互いの熱。
言葉を発せないでいるイザークの様子を伺いながら、ディアッカは更にそこを押し付ける。

「や、やめろ・・・っ!」
「なぁ・・・オレたち、付き合ってるんだよな?」

ぼそ、と呟いた言葉に、ぱっとイザークが顔を上げた。
驚いたような、泣き出しそうな、そんななんとも言えない表情。

そのまま暫く何も言わずに見つめられて、ディアッカの頭はだんだん冷静になる。
先に視線を逸らしたのは、ディアッカだった。

「ディア・・・」
「・・・あー、悪ぃ。なんかオレ、一人で勘違いしてたみたい・・・はは」

身体を離して、ディアッカは立ち上がる。
戸惑うイザークの顔を見たくなくて、後ろを向いた。
程なくしてイザークが部屋を走り去る音がして、ディアッカは今日最大の溜め息を吐いた。

「・・・そんなに驚かなくても、いいじゃねぇか」

まるで否定するような沈黙と、瞳。
まっすぐに見つめられてしまったショックは、自分で思っているよりも相当大きかった。

つまり、舞い上がっていたのは自分だけ。
強気な性格のイザークだが、こういう色恋に慣れていないから、かわし方を知らなかったのだろう。
隙あらば仕掛けていたキスも、さっきの出来事も、イザークにとっては嫌悪でしかなかったはずだ。

「・・・はぁ」

頭をガシガシと掻いて、先ほどまでイザークが座り込んでいた場所に目をやる。
その傍らには、先ほど割らずに済んだ瓶が転がっていた。

暫し考え込んだディアッカだったが、せめて友達には戻りたい。
さっきのは冗談でした、と笑えばいいのだ。
そうすればいつもみたいにイザークは怒って、怒鳴って。
それですべてが元通りになるはずだ。
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