novel-old
□CAT
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オレの恋人は、猫のような男だ。
「藤守、起きろ!朝だぞ、遅刻すんぞっ!!」
「ん〜・・・ぅ・・・」
寝起きの悪いこいつを起こすのはもうオレの日課みたいなもので、唸りながら毛布に潜り込む姿も随分と見慣れてきた。
だからと言って起こすコツを掴めたわけでもないので、それをどうやって引っ張り出すか悪戦苦闘するのも、今に始まったことではない。
小さい身体を更に小さく抱え込んで毛布に包まっている姿は、まるで誰も信用していない気丈な猫みたいだと思った。
「ほら、いい加減出ろ!マジで遅刻するってば!」
今日はいつにも増して寝起きが悪いようで、仕方なく力ずくで毛布を剥ぎ取るという実力行使に出ることにする。
そうすればさすがに眠り続けてはいられないようで、うっすら瞳を開けた藤守が引っ張った毛布についてくるように身体を起こした。
「やだ、さむいっ・・・」
「ぅわっ・・・!?」
かろうじて掴んだ毛布の端をたぐり寄せる藤守の力が思いがけず強くて、逆に引っ張られるように毛布と共にベッドに倒れ込む。
「ってぇ・・・オイこら藤守、何また寝てん・・・」
「あったかぁい・・・」
オレの凄みは心底幸せそうな藤守の寝顔と声ですっかり引っ込んでしまった。
引っ張り合ったせいでぐちゃぐちゃになってしまった毛布の代わりに藤守が縋りついたのは、他でもないオレの身体で。
安心しきった顔で胸のあたりに擦り寄って来られると、誰にも懐かなかった猫が自分にだけ甘えてるのを見ているような、そんな気持ちになった。
「ふじも・・・学校・・・」
学校に行かなきゃ遅刻する、っていうのは一応分かってはいるのに、正直どうでもいいかなぁなんて思ってしまう。
そしたらこんな気持ち良さそうに眠っている藤守を起こすことも、せっかくくっついていられるこの貴重な時間を終わらせることもしなくて良いのだから。
甘い考えに追い討ちをかけるように襲ってきた眠気と戦う気力もなく、心地よい温もりを抱き締めた。
「空、ナオくん!早くこないと遅刻・・・っ」
バン、というすごい音と同時に響いた声に、オレは反射的に瞳を開く。
恐る恐るドアの方を見れば、そこには予想通り目を真ん丸くさせている祭の姿があった。
いつものように手にしているカメラを構える余裕もないほどに固まってしまっているのも、無理はないだろう。
オレたちの関係を分かってはいるはずだけど、実際こんなところ目にしたら戸惑うのも仕方ない。
「あ、祭・・・いや、これは・・・そうじゃなくて」
慌てて起き上がり、あはは、と笑って誤魔化そうとしたけれど、顔面蒼白状態の祭に届いているのかはわからない。
オレが身体を起こしたせいで、藤守が居心地悪そうに身じろいだ。
「んぅ・・・なに・・・朝?」
「あ、藤守っ、ちゃんと祭に説明しろよ!お前が寝惚けて勝手に抱き付いて来たんだからな!」
「・・・はぁ?何が・・・って、なに人のベッドに入って来てんの!?」
「いてぇっ!!」
目覚めたばかりとは思えないほどの凄まじいパンチをくらって、とどめとばかりにベッドから蹴り落とされる。
「祭ちゃん、いこっ」
「え?あ、あぁ、そうだね」