novel-long

□きみのすべてを。 2
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「・・・ここ、どこでィ・・・」

目覚まし時計も上司の怒鳴り声もなく、沖田は自然と浮上した意識の中で、ぼんやりと辺りを見渡した。
見覚えあるような、ないような、そんな部屋の布団の上に自分はいる。

「・・・?なんで、こんなとこ・・・」

クエスチョンマークしか浮かばない頭の中に、ここで眠るまでの経緯が思い当たらない。
起き上がろうと腰を上げれば、ずきりとした痛みに襲われた。
打ったときや、ぶつけた様な痛さではないそれに、沖田は顔を顰める。

改めて自分の身体を見ても、特に怪我をしている様子もない。
ただ、自分のものではない、少し大きめの寝巻きを着ていた。

痛む腰を上げるのはやめておいて、見渡すように自分の着物を探していると、ふいに襖が開いた。

「・・・・旦那?」
「目ぇ覚めた?ここ、俺んち」

突然の登場に一瞬驚いた沖田だったが、それによって昨日のことが少しだけ思い出された。
隊務中、いつものように万事屋に寄って。
毎日毎日ムカつくあのヤローのことを愚痴りながら、もらったいちご牛乳を飲んで。
・・・飲んで、そのあとは?

そこでぷつりと途切れた記憶は、思い出せそうで、できない。
もどかしさに首を傾げる沖田に、銀時は近寄って。
おもむろに、携帯電話を目の前へ差し出した。

「・・・・・・・ッ!?」

途端に目を見開いて、沖田は絶句する。
そこに写っているのは、あられもない自分の姿。
目を背けたいけれど、なぜか凍りついたように身体が動かない。

「やっぱ覚えてない?」
「・・・覚えて、・・・」

少しずつ蘇る記憶に、沖田の身体が小さく震え出した。
もらったいちご牛乳を飲んで、
急に身体がおかしくなって、
見たことのない笑みを浮かべた銀時が近付いてきて。

そのあと、は・・・

「あれ、覚えてるの?すげぇな、あんなぐだぐだだったのに」
「・・・っ、旦那が・・・・・・」

細部までは覚えていない。
とにかく気持ちよくて、あたたかくて。
その温もりは、土方のものだと、そう思っていたから。

「あれは、旦那・・・だったんですねィ・・・」
「おいおい、最初の感想はそれですか?この写真の使い道とか、気にならないわけ?」

その言葉に、はっとしたように沖田が顔を上げた。
間近にある銀時は、あのときと同じ笑みを浮かべていて。
咄嗟に奪い取ろうとした携帯電話が、ひょいと遠ざかる。

「旦那・・・なんで、こんな」
「これさ、ばら撒かれたくないでしょ?」
「そりゃ・・・っ」

あぁ、なんてありがちな脅迫。
なんてこと考え始めたら、おしまいだけど。
どんな手段を使ってでも、俺のものにするって決めたから。

欲しかったのは、既成事実。
そしてそれを証明する、この写真。
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