novel-old

□※腕の中
2ページ/2ページ

あまりに普段と掛け離れた愁一の表情、声、息遣い。
それなりに長い時間を共にしてきたにも関わらず、全てが初めてだった。

「んっ・・・ぁ・・・」
閉じた蕾をこじ開けるように指を埋める。
顔を顰めた愁一だが、その表情はすぐに快楽を求めるものになった。
僅かな締め付けによる抵抗はあったものの、すぐにそこは解れ、誘うように中が収縮する。
「・・・シューイチ、つかまれ」
「ん・・・・」
腰に腕を回して立ち上がるよう促すと、愁一がKの肩に手をかけて弱弱しく椅子から離れた。
起こした身体を机と向かい合わせて背後から抱き込めば、机に愁一の上半身がうつ伏せに倒れ込む。
Kは自分のベルトを外しながら、突き出された腰が揺れるのを見て欲求を高ぶるのを感じた。
「・・・っ、あ・・・」
「力を抜け・・・」
取り出した自身の先端が蕾に触れ、ゆっくりと沈んでいく。
少しずつ角度を探りながら、その細い身体を壊さぬよう、そっと。
すると、焦れたように愁一が僅かに振り向いた。
「・・・大丈夫、だから・・っ・・・」
「・・・・シューイチ?」
「うごいて・・・?」
後ろからでは表情までは見えず、上気した頬と伏せた睫毛の小さな水滴が余計に情欲を誘う。
そういえば散々慣れているのだろうな、と頭の片隅であの無口な同居人を思った。
「ん・・っ!あ、あぁ・・・ンっ!」
腰を引き寄せるように一気に奥まで突くと、すんなりと受け入れたそこは熱く絡みつく。
その感覚と掠れた甘い声に刺激されて、何度も打ちつけた。
背中から覆いかぶさるように腕を前に回し、片手で胸の飾りを弄り、もう片方で愁一自身を上下に扱く。
「そ・・んな、一気にしたら・・・っ・・」
机に頬を押し付けたまま、愁一の指先が縋るものを探して、散らばる紙片をくしゃりと歪めた。
皺になった紙を見やれば、そこに散りばめられているのは、詩の断片。
愁一の、愛の言葉たち。
「・・・・っく・・・」
「や、ぁ・・・っ・・・も・・でる・・っ・・・」
現実に引き戻された気がして、夢中で腰を打ちつけた。
程なくして果てた愁一を追うように、その中で熱を放つ。
疲れた身体と冴えた頭が妙にリアルで、机からずり落ちるようにして倒れ込んだ愁一を冷静にソファへと運んだ。



「・・・一度帰らせる、か」
小さく呟き、息を吐く。
いくら思い返してみても、先程の自分の感情に名前を付けることはできなくて。

服を着せてやっている間も愁一は眠り続けていて、そのあどけない表情は見慣れたものだった。
抱き上げた重さも、細さも、知っている。
ただ、こんなふうに大事に扱うことは初めてだった。

助手席に座らせ、背もたれを僅かに倒してやる。
運転席に乗り込み、真っ暗な道をあの家へと走らせた。
この気持ちが育つ前に、あの人に返すのが一番いい。

「・・・シューイチ、ついたぞ」
大きなマンションの前に車を停め、声をかけた。
軽く揺すっても小さくうなり声を上げるだけで、目が覚める気配はない。
「・・・シューイチ」
これでサイゴ。
最初で最後と誓うから。
そっと顔を寄せ、唇が合わさる。
触れるだけのそのキスは温かくて、柔らかくて。

ドアの外の人物に気が付くまで、少しだけ時間がかかった。

「・・・ユキさん」
運転席から乗り出していた身体を戻すと同時に、助手席側の扉が開かれる。
暗さでその表情は伺えず、弁解するべきなのか思いあぐねているうちに瑛里は愁一を抱き上げた。
「ごくろーさん。これ持ってっていい?」
低く迫力のある声が闇に響き、Kは所在無げに握ったハンドルに視線を落とす。
「・・・もちろん。アナタのモノだ」
その返答に彼がどう思ったかはわからない。
バン、と扉が閉められ、影がマンションに消えていった。

暫くしてひとつの部屋に明かりが灯る。
これが彼の、居るべき場所。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ