novel-old

□涙サプライズ
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4月15日 PM11:15
連れられるまま小さい部屋に入り、椅子に座らされ、自分を取り囲むように立ちはだかるよく知った男たち。
だんだん意識がはっきりしてきた愁一の頭の中には、疑問しか浮かばない。
「・・・まだ仕事、あるんだっけ?」
「今日の仕事は全て終了した。明日もがんばってくれたまえ」
自信たっぷりに答えるマネージャーに、それ以上何も聞けなくなってしまう。
・・・それならなぜ自分は会社にいるのだろうか?
「・・・ヒロ、帰らないの?」
「気にすんな、1時間後には帰るから」
いつもの笑顔でさわやかにそう言われてしまい、またしても愁一は口を噤んだ。
・・・その1時間は何をする?
「・・・藤崎、それ何?」
「これですか?ビニール袋ですよ」
いつの間にか藤崎が手にしていたパンパンに膨らんだ大きな袋。
誰かさんの面影を存分に引き継いだ有無を言わさぬ声色に、その中身を問うことはできなかった。
(・・・なんかみんな、おかしくねーか?)
すっかり気迫に負けてしまった愁一は、おとなしくその「1時間」とやらが過ぎるのを待つことにした。
(そういや由貴に11時には帰るって言っちゃった・・・ま、いっか)

4月15日 PM11:50
状況は変わらず愁一はまったく何もわからないまま、他愛もない会話を交わして時間が過ぎた。
愁一を除いた3人は誰からともなく目配せを交し合い、タイミングを計っていた。
計画では12時ぴったり、日付が愁一の誕生日に変わった瞬間に部屋の照明が落ちる。
その隙に順が持っている袋の中から手早くクラッカーを用意し、1分後に再び照明が付くのと同時にパーティー開始だ。
しかし後が怖いので、15分後には終了し、愁一は恋人の元へ返す。
そんなささやかな邪魔なのである。

4月15日 PM11:58
刻一刻と迫る瞬間に、3人の緊張は高鳴る。
ここまでくれば今から邪魔が入るということは考えにくい。
ということは、この作戦はもう成功したも同然だ。
それぞれがそう自分に言い聞かせて、最終的な作戦遂行の為にリラックスしようと深呼吸したとき。
「・・・あ、由貴から電話だ」
「「「!!!??」」」
「ちょっとごめん・・・由貴?どうしたの?・・・え?・・・あぁゴメン、なんかもう少ししないと帰れないみたいで・・・いや、帰るよ?・・・今日中に?いやそれはムリだって、あと1分しかないし。・・・なんで?なにが?・・・明日?何かあったっけ・・・うわ!?停電っ!?あ、ごめんごめん急に電気消えちゃって・・・え?なに、聞こえなかった・・・へ?おめでとう?・・・・ああああああぁー!!忘れてた!!ごめん、今すぐ帰るから!!」
言うや否や、暗闇の中で躓き壁にぶつかりながらも部屋を飛び出す愁一。

間もなくして再び明るくなった室内には、泣き崩れる男3人の姿があった。

作戦は失敗。
やはりあの男は何においても1枚も2枚も上手なのだと思い知り、男たちは用意していたケーキを貪るのであった。
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