novel-old
□※Please HELP me
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その後何度も続いた行為に、2人がぱたりと倒れこむように眠りについのは数時間後。
愁一の手首の自由を失っていたイヤフォンは緩んで拘束の意味は持たず、充電の切れたその本体ももう奏でてはいない。
重なり合うように眠る2人の寝息だけが、小さな部屋に響いていた。
微かな電子音で、愁一は目を覚ました。
「・・・ん・・・・?」
壁にかかっている時計に目をやると、時刻は日付をまたごうかというところ。
未だ鳴り続けている聞き慣れた音に耳をすまし、愁一は勢いよく起き上がる。
「・・・・!!」
音の出所を確認した途端、一気に頭が覚醒した。
今の状況には皮肉すぎるが、鳴り続けるNITTLE-GRASPERの曲は間違いなく彼専用に設定した着信音。
慌てて隣を見れば、竜一はまだすやすやと眠っているようだった。
「・・・由貴っ?」
『・・・・やっと出たか、クソガキ』
冷たく耳に届く、低い声。
無意識に涙が零れ、頬が赤くなるのがわかった。
「なっ・・・なんで、・・・」
『どこにいる』
「・・・へ?」
『どこにいる、って聞いてんだ』
「え・・・えっと、会社・・・」
『1分で降りて来い』
「・・・・・え?」
その言葉の意味がわからず、きょとんと聞き返す。
面倒そうな溜息が受話器越しに聞こえた。
『1分しか待たねぇっつってんだ、さっさとしろ』
「う・・・うんっ!すぐ行く!!」
プツリと切れた電話を握り締め、愁一はベッドから抜け出した。
竜一が目を覚まさないように、そっと部屋を出る。
1分と言ったら、本当に1分しか待たない男だ。
それでも、迎えに来てくれたことや電話をくれたことへの嬉しさは計り知れない。
愁一は、人気のない廊下を駆け抜けた。
最愛の人に会いたい一心で。
部屋から遠ざかる足音が聞こえなくなったころ、竜一はごろりと寝返りをうった。
1人きりになった部屋で、ぼんやりと天井を見上げる。
「やっぱ帰っちゃうか、あいつのところに」
ぽつりと呟く言葉は、何もない空間に消える。
「...Please HELP me.....
if you consider me to be your borden...
I will say so long,anytime...
BE THERE...」
何よりも美しいその歌声は、誰にも届くことはなかった。