novel-old

□※Friend
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「・・・・そんなことも、あったっけ」
当時はなんでもないことだった。
その後は何事もなかったように接していたし、意識することもなかった。
「キス」という認識があったわけでもない。
その時、ただ本能でその唇に触れたいと思ったのだ。
「・・・俺のほうがホモっ気あったのかも」
呟いた言葉にぞっとしたが、あの時の気持ちは恋愛感情というのには少し違う気がした。
改めて、愁一を見つめる。
そっと手を伸ばし、その柔らかい頬に触れた。
薄く開いた唇に、恐る恐る自分のそれを重ねる。
あのときと全く同じシチュエーション。
二度目に感じるその柔らかさは、懐かしさをリアルに呼び起こす。
大人になった今繰り返してみたところで、何かが変わるのだろうか。
「ん・・・ヒロ?」
唇が離れてすぐ、まるで眠り姫のようなタイミングで愁一の瞳が開いた。
驚いたようなまっすぐな視線で見つめられる。
自分の中で、数年前と同じ感情が湧き上るのを感じた。
そして今はもう、あの時みたいに子どもじゃない。
「・・・え?なに、ど、どうしたの!?」
広めのソファが2人分の体重を受け止めて沈んだ。
無言で覆いかぶさる自分を見上げる愁一は、ただただ不思議そうな表情を浮かべる。
その瞳に抵抗が見られないうちに、浩司はもう一度唇を重ねた。
三度目のキスは、深くて長い、大人のキス。
「・・・ん、・・・っ」
息を吸い込む暇さえ与えずに翻弄し、服の間に手を入り込ませる。
寝起きで温かい肌は滑らかで、撫で上げるように進ませていくと、愁一の身体が小さく跳ねた。
「・・ふ、はぁっ、・・・ヒロ・・・」
辿り付いた突起に指先が触れた瞬間、切なげな声が漏れる。
それでもまだ拒絶の域には至らないその瞳に、浩司の方が疑問を浮かべた。
「抵抗・・・しないのか?何しようとしてるのか、わかるだろ・・・?」
その言葉に愁一も一瞬戸惑う表情を浮かべたが、ゆっくりとその細い腕が背中に回り、浩司の体が引き寄せられた。
「・・・オレ、ヒロなら、いい・・・」
囁かれたその意味に浩司の理性が吹き飛ぶまで、時間はかからなかった。
上半身を少し浮かせて服を脱がせると、頬を赤くした愁一が恥ずかしがるように浩司の上着を掴む。
まだ外から戻ってきたままの着込んだ状態だったことに気付いて、ゆっくりとジャケットを脱いだ。
上着1枚分近づいた身体が、更に熱くなるのを感じる。
「愁一・・・」
由貴さんは、と続けようとした言葉を飲み込んだのを、愁一は気付いただろうか。
スピーカーから流れている懐かしい音楽が、2人を過去に連れ戻しているようだった。
優しい微笑みを浮かべている愁一はまるで自分を想っているようにも見えて、浩司は行為を進める。


「は、・・・はぁっ・・・ヒロ・・・っ」
甘く鳴く愁一の声とソファが軋む音、そして昔よく2人で聞いていた曲。
敏感な肌は浩司の長い髪が掠めるだけでも反応し、その度に収縮する愁一の中に締め付けられる。
「痛くないか・・・?」
「ん、気持ち、いい・・・っ・・・」
初めて抱く男の身体に、戸惑ってばかりなのは浩司だった。
心配も杞憂に終わりすんなりと受け入れた愁一に、由貴瑛里の影を見てしまう。
余計な考えを振り払うべく動きを早めれば、背中にしがみ付く愁一の力が強くなる。
「ヒロ、前も・・・さわって・・・」
どこをどうすればいいのかなんて分かるはずもなく、彷徨っていた手を導かれるままそこへ持っていく。
先走りが零れる先端から指先でつぅ、となぞって、根本から包み込んだ。
出し入れする腰の動きに合わせて上下に動かしてやると、一層高まる喘ぎが耳に心地よく響く。
「も、っく・・・でちゃ・・・よぉっ・・」
「オレも、イキそー・・・出して・・・いい?」
「んっ、・・・なかに、してほしぃ・・っ・・・」
潤んだ目で見つめられ、涙声でか細く発される言葉。
初めて見る表情と、初めて聞く声。
浩司が最奥を力任せに突いた途端、愁一の背中が仰け反り、手の平にあった熱が弾けた。
「んあぁっ・・・っゆ・・・・・」
「・・・っ、・・出るっ・・・」
ほぼ同時に中に放ち、汗ばむ身体で抱き締め合った。


「・・・由貴さんの名前、呼ぼうとしたろ」
愁一の呼吸が整ってきたころ、浩司は悪戯に言う。
中からずるりと引き抜く感覚に身体を震わせた愁一が、笑った。
「・・・えへ、つい癖で」
こんな行為の後でも無邪気にそんな表情を作れる愁一に、浩司も思わず微笑む。
「いいねー、ラブラブで」
浩司の言葉に照れたように綻ぶ愁一から身体を離して、ステレオのリモコンに手を伸ばす。
電源のボタンに親指をかけ、一息吐いて押した。
ぴたりと止んだ曲が、現実を告げる。

恋愛感情なんかじゃ、ない。
きっとただの独占欲。
それを受け入れたあいつも、きっと同じなんだろう。

一晩経ち、同じ部屋から仕事に向かう。
今日の夜愁一が帰る場所はここではなのだと思うと、少しだけ切なくなった。
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