novel-old

□※想い
2ページ/2ページ

「ふー…」
濡れた髪をタオルでかき回しながら、腰にバスタオルを巻いただけの格好でうろうろと歩き回る。
引っ越したばかりらしいこの家に来るのは初めてだったので、眠る場所を探して並ぶドアをひとつひとつ開けていった。
「2人暮らしには広すぎるだろ・・・」
どの部屋もただの物置となっており、人が生活している気配はまったくない。
こんなに広いのだからもしかしたらと思い、客用の寝室なんてものを探したが見当たらなかった。
「ソファーで寝るか…」
諦めてリビングに戻ろうかと思いながら、最後の扉を開く。
「…あ…」
予想していなかったわけではないのだが、目の当たりにして自然と戸惑ってしまう。
当たり前のように置かれた大きなベッドで、丸くなって眠る愁一の姿。
サイドテーブルには灰皿といちごポッキーの箱が並んでいる。
いけないとは思いながらも、そっと近づいた。
大きなベッドの端で眠る愁一は、隣に来るであろう人を待っているかのようで。
そっと頬に触れると、くすぐったそうに身じろいだ。
その仕草から、目が離せなくなる。
なるべく静かにベッドに乗り上げ、上から愁一を見下ろした。
指先で柔らかい首筋を辿ってゆく。
「・・ん・・・ゆき・・・?」
パジャマのボタンを外し、胸元をそっと撫でると、うっすらと開いた瞳が見上げてくる。
開けっ放しのドアから入る微かな光だけでは、お互いをはっきり見ることはできない。
シャンプーもボディソープも浴室にあったものを使ったのだから、きっと慣れた匂いになっているだろう。
まだぼんやりしたままの愁一には樹把は瑛里に見え、画面越しでは物足りなさ過ぎる樹把には、愁一を竜一と重ねるのは難しいことではなかった。
「おかえり・・・」
微笑んで伸ばされた手が背中に回り、弱々しく引き寄せられる。
「・・・愁一」
完璧に勘違いしている愁一に罪悪感を感じながらも、求められるまま唇を重ね、抱き締めた。
兄がいつもどんな風にこの身体を抱いているのかはわからない。
しかし、竜一に重ねた愛情だとしても、今この瞬間愁一に愛しさを感じているのは事実だった、
「・・・ん・・」
薄い生地のパジャマは、上から触れただけでも刺激を与えることができる。
すぐに形を変えたものを執拗に撫で上げ、揉みしだいていく。
暗さに慣れてきた樹把は愁一の切なげな表情を盗み見て、散々想い夢見ていた人物を思い浮かべた。
もっとその顔を歪ませたくて、もっと感じさせたくて。
ズボンを脱がせると、纏わりつくシャツを愁一が自ら脱ぎ、なんとも無抵抗に全てを曝け出した。
露になった愁一のものに舌を這わせていくと、驚いたように身体が跳ねる。
「ん・・・っ、ど・・したの・・?」
「え?」
愁一の反応を気にしながら、形どおりに銜え込み、舌を使って舐め上げる。
確かな刺激に慣れていないようで、逃げ腰でびくびくと震えているのがわかった。
「ぁ、そん・・なこと、いつもしないのに・・・ッ・・・」
「・・・あ、そー・・・なんだ・・」
樹把の言葉は快楽に飲み込まれてゆく愁一には届いていないらしい、
ゆっくりと上下させながら、片方の手で後ろを探る。
蠢く箇所を指で撫でると、簡単に飲み込まれていった。
「あ・・んっ・・・」
舌での刺激はそのままに、2本目を埋めてゆく。
張り詰めたそこが弾ける前兆をみせ、一気に追い上げるとあっけなく精を放った。
「は、はぁっ・・・ごめ・・・」
未だぴくぴくと震えているそこを丁寧に舐めとり、飲み込みきれなかった分を舌先で拭う。
「ゆき・・・どうしたの・・・?今日、なんか違うよ・・・」
まだ整わない息使いで肩を上下させて、焦点の合わない瞳がその姿を探す。
「そりゃそーだ」
「…へ?」
場面に似合わない軽いトーンに、愁一も間抜けな声をあげた。
暗闇の中、目を凝らして見え始めてきた人物にみるみる表情が強張ってゆく。
「た、樹把!?」
状況に気付いて飛び起きようとした身体を、樹把が片手でおさえつけて制する。
身体ごと向き合って見下ろす愁一の瞳が、驚きから怒りに変わってゆくのがわかった。
今にも飛びかかってきそうなほどに睨みあげられ、一瞬怯んだもののすぐに口角を上げて笑みを浮かべる。
「お前が勝手に兄貴と勘違いして抱き付いてきたんだぜ?」
「そ…そう、かもしれないけど…っ」
痛いところをつかれても、強気な瞳は揺るがずに樹把を捕らえている。
怯えを含んだ視線に、自分の中で何かが燃え上がるのを感じた。
「…その目がイイんだよなー」
「なっ…に言って…てゆーか指抜け!」
余裕たっぷりの樹把に反発するように、じたばたと暴れる身体をいとも簡単に組み敷いた。
「あ、う…っ…」
ぐちゅりと中を掻き回してやれば、素直に反応を示す。
それでも腕に爪を立てて抵抗するのがが可愛くて、首筋から胸までをねっとりと唇でなぞった。
「や、め…っ」
「1回イったくらいじゃ足りねぇだろ?」
胸の突起を舌先で転がしながら兄によく似た声で囁けば、愁一がぴくりと跳ねるのがわかった。
埋めたままの指でざらつく奥を探り、あいた手で抵抗する腕を絡めとる。
「やめ・・樹把っ、あ、やぁ・・・!」
「由貴って呼べよ、さっきみたいに」
耳元で低い声を出してやった途端、触れていなかったにも関わらず愁一のものがまた弾ける。
「ぁ・・・はぁっ・・・」
「すげー、お前兄貴の声だけでもイケんだ」
予想以上の反応にからかうように言うが、もう抵抗する気力もないようで、涙の滲んだ瞳が揺れた。
「やめて・・・もう、お願いだから・・・」
目を合わさずに、ぽつりと言われる。
瑛里だと勘違いしていたさっきまでとは全く違う、完全な拒絶。
わかっていたはずなのに、兄との差を思い知らされた気がした。
そして、自分の意識とは関係なく頑なな拒否すらあの人に重ねてしまう。
(・・・イカれてる。それもかなり。)
自嘲するように笑い、重なる小さな身体を抱き締めた。
「なっ・・・」
戸惑う愁一に構わず、肌を合わせる。
どうしてそんなことをしたのかはわからない。
ただ、抱き締めてやりたいと思った。
「・・・・いち」
「・・・樹把・・・?」
呟いた名前は、どちらのものだったろうか。
自分が今求めているのは、誰なのだろうか。
「ん、ぅあ・・・ああっ・・・」
抱き締めたままで、押し込むように繫がってゆく。
じわじわと広げながら進んでいけば、耐えるように愁一が抱き締め返してきた。
最奥で止まり、息を吐き出す。
締め付けられる感覚に、理性を保てなくなる。
汗で額にはりついた愁一の前髪をよけ、顔を寄せた。
熱を持ち、涙を浮かべた瞳を見つめながら唇を重ねる。
「ふ・・・ぅ、んっ・・・あ・・」
苦しげに漏れる吐息が耳に心地よくて、何度も突き上げた。
腹に掠る愁一のものがぴくぴくと震え、小刻みに白濁を放つ。
まだ見ていたくて、やめたくなくて、伝わる締め付けに耐えながらも奥を目指す。
今この時だけはと、錯覚していたかった。
「う、ぅあぁ・・・っ!」
絶え間ない波に大きく身体を反らせた愁一が、ひときわ強く締め付ける。
「・・・く、ぅっ・・・」
耐え切れずに放った樹把の精が中に広がり、愁一はばたりと意識を失った。


玄関を開けると、明るみ始めた空が迎えてくれた。
ひんやり冷たい空気が、白い息を際立たせる。
「・・・さむ・・・」
両手を擦り合わせて足早に歩き出したとき、車の音が聞こえた。
「・・・あ」
下を覗き込んでみれば、見覚えのあるシルバーの車が車庫に入るところだった。
「・・・・・」
樹把はエレベーターの横の階段を降り始める。
きっと数秒後には瑛里が上がってくるだろう。
なんとなく顔が見られないような気がして、鉢合わないようゆっくりと一段一段踏みしめる。
愁一は瑛里のもので、竜一は手の届かない遠い存在。
不憫すぎる、と溜息をついた。

なるべく時間をかけて辿り付いた地上から上を見上げれば、ちょうど瑛里が部屋に入るところが見える。
閉まっていくドアを見届けて、誰もいない真っ直ぐな道を歩き始めた。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ