Cannot escape from here.

□I felt the pain.
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パタン。

本の背表紙を閉じ、ふぅ、と一息吐く。

読書というものは良い。
室内に居ながら様々な知識を得ることが出来るし、また、こことは違う世界に行くこともできるのだから。

本を読み終えた余韻に浸りつつ、私は次の本を借りに行こうと部屋を出る。


美味しい紅茶もお菓子も好きなだけ食べられるし、本も沢山ある。
本当にここはいい滞在場所よね。

勿論、他の領土でそれらが全く得られないわけではないけれど。

私を適度に放っておいてくれるから、ここが一番自由気ままに過ごしやすい。


しみじみとそんな事を思いつつ廊下を歩いている内に、ブラッドの部屋の前までやってきた。


「あ、コア様。そこは先程アリス様がブラッド様に招かれて入っていったまま出てきていません。もしかしたら入りにくい雰囲気かもしれませんよ。」


扉をノックしようとしたところで、丁度通り掛かったこの屋敷の使用人の格好をした私の部下に声を掛けられる。

わざわざ聞かずとも、私が極力不快な思いをしないよう気を配って教えてくれるのだから、よくできた部下だ。


「…そうなの。」


それを聞き、ノックしようとしていた手を降ろす。


「何でしたら、僕が返しておきましょうか?」


役無しの彼は、私の手にある本を指し示しつつ問い掛ける。


「……。」


彼には使用人としての仕事と私の部下としての仕事がある。

私と違って忙しいであろう彼に手間を増やしてしまっても良いものだろうか。

それに、きちんと私自身が直接返して礼を告げるのが礼儀というものではないか。


「じゃあ、お願い。」


そう少し悩んだものの、本はいつも部屋の主が居なくても勝手に借りているし、彼のせっかくの好意を無駄にするのも良くないと判断し、彼に本を預けて部屋に戻った。





部屋に戻ってくると、先程まで暗闇に満ちていた空はいつの間にか茜色に染まっていた。


暇だなぁ。


窓辺に置いた椅子に腰掛け、窓枠に頬杖をつきながら外の風景を眺める。

この時間帯ならビバルディの機嫌がいいだろう、と思いついたものの、何となく出かける気分ではない。


……最近、ブラッドはアリスの相手をしてばかりよね。
私がブラッドに相手をしてもらえないという事は今までほとんど無かったのにな。

別に、ブラッドに恋愛感情を抱いているわけじゃないから構わないけれど。


「お姉さーん!」
「一緒に鬼ごっこしようよ!」


どこからか聞こえてきた双子の門番達の声。


そういえば、あの子達の遊びにも最近付き合わされないわね。

アリスは私みたいに無感情じゃないから、私と遊ぶよりもアリスと遊んだ方が楽しいのかしら。

……何を考えているの、私は。
私が危険な目に遭わなくなるんだもの、これでいいじゃない。


「アリスー!この前すっげぇいいにんじん料理の店を見つけたんだ!一緒に行かねぇか?」

「駄目だよ!お姉さんは僕達と遊ぶんだ!」
「にんじん料理なんか食べに行ったって、お姉さんは楽しくないよ!」

「うっせえ!にんじん料理の美味さをなめんなよお前等!」

「ちょっとあんた達、私抜きで勝手に話を進めないでちょうだい!」

エリオットが加わったのか、聞こえてくる会話が賑やかになる。


エリオットに外出に誘われることも少なくなったな。

彼の外出は、大抵がにんじん料理を食べに行こうというもの。
だから、それに誘われないというのは、私がうんざりするほどにオレンジ色の料理を食べなくてもよくなる事なのだから、むしろ好都合なはず。


ちくり。ちくりと胸が痛む。


アリスの事は好きだし、彼らがアリスと仲良くしていても、私の生活に何ら支障は無い。


なのに、何故こんなにも気分が悪いのかしら。


窓の外を眺めるのを止め、柔らかい上質な布団の敷かれたベッドに、ばふっ、と飛び込む。


   、また今日も一人で出かけるの?
……最近、いつもそうね。
私と居るよりも友達といる方が楽しいの?



ふと頭に浮かんだ映像。
そこには今と同じような思いをしている自分の姿。


あれ。
こんな事前にあったかしら。


覚えの無いその映像の事を思い出そうとするのだが、思い出そうとすればするほど記憶には霧がかかっていく。


そうこうしている内に、段々とまぶたが重くなり、いつの間にか私は眠ってしまっていた。
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