Cannot escape from here.

□I'm relieved.
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「コアー…」

「嫌よ。」

机の上に塔のように積み重なった書類に埋もれた男が、ぐったりとした様子で私を呼ぶ。


「なっ…!まだ何も言っていないだろう!」


明らかに手伝え、と言われる事が予想されたので、彼が本題を告げる前に私はばっさりと切り捨てた。

そんな私の態度に、彼はぺしぺしと机を叩きながら抗議する。

自分は偉いんだと主張する割に幼い行動をする彼に私は少々呆れた表情を浮かべる。


「じゃあ、本題は何なの?」

「書類の仕分けだけでいいから手伝ってくれないか。」


ほらね。


渋々と本題を聞いてみれば、予想していた通りの返答をする彼に、小さく溜息を吐く。


全く。
何でこんなのが最高権力者なのかしら。

病弱であるにも関わらず、病院へ行くのを極端に嫌がる。

いい歳して計画的に仕事を片付ける事も出来ずに部下に頼りきり。

情けない男ね。


「おい君。聞こえているぞ…!」

「聞かせてるのよ。」


私の心を読んだ彼は、案の定私の言葉にダメージを受け、口からだらだらと血を垂れ流しながら涙目で私を恨みがましく見る。


「仮にもこの塔で一番偉い私に対して随分な態度だな。同じ部屋に居るなら手伝ってくれたっていいじゃないか!」


のんびり本を読んでいるという事は暇なんだろう!?と、彼は私の手にある本をびしっと指差す。


「グレイに貴方の見張りを頼まれたの。万が一逃走した場合は直ちに位置情報を手に入れて教えろってね。私はこれでもきちんと仕事をしているのよ。」

「くっ…グレイの奴め相変わらず厄介な事を…。」

「逃げずにさっさと仕事をすればいい話じゃない。」

「君にはこれが終わる量に見えるのか!?絶対に無理だ!君が手伝うか、息抜きさせてくれるかしなければ私は死んでしまう!」

「そう言いつつ今生きてますから大丈夫ですよ。」


大げさにぎゃあぎゃあと喚き散らすナイトメアの相手をしていると、いつの間にか音もなくグレイが室内にやってきていた。

その彼の手にある大量の書類を視界に入れたナイトメアは、元々青白い顔を更に真っ青にして冷や汗を浮かべる。


「グ、グレイ…」

「少しは進みましたか。仕事はどんどん増えるんですから、口ではなく手を動かしてくださいよ。」


減っている様子の無い机上の書類を見た彼は、小さな溜息を吐きつつ私の横を通り過ぎる。
そして、イヤイヤと首を横に振るナイトメアの目の前に、どさりと無情に書類の山を追加した。


「グレイの馬鹿!鬼!悪魔!」

「何と呼んでも構いませんから仕事してください、ナイトメア様。」


ああほら、書類が汚れてしまうじゃないですか。
と、グレイは吐血しながら悪態をつくナイトメアの口元をポケットから出したハンカチで拭う。

まるでナイトメアの母なのかとも思えるようなその慣れた対応に、このやり取りが幾度となく行われているだろう事が窺い知れる。



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