しょーせつッ

□届 か な い
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馬鹿な人。
自分を出すのが下手な人。
意地っ張り。
嘘つき。



でも、
その馬鹿さは、純粋すぎて。
自分を出すのが下手なのは、自分を見せるのが怖いから。
意地っ張りなのは、甘えるのが怖いから、甘えた何かから逃げられなくなりそうになるから。それが怖いから。
嘘つきなのは、心をさとられてしまわないようにとするから。




それが、私が知ってる、私が思う彼だった。

そんなこと決して口にはしないけど。



「落ち込んでんの?」
「別に」
「嘘ばっかついて」
「嘘じゃない」
「大丈夫?」
「‥大丈夫、じゃないかも」
「思い出したん?」
「…んー少し。」
「そっか」



彼が私の背中に体重を預ける。
いつだって自分を隠すくせに、たまにこうして自分を見せかける。


それでも、見せかけてまた隠そうとする所は彼の悪い癖だ。



少しだけ鍵を開けるのに、
中に入ろうとすればやっぱり駄目だと閉め出される。


「言わないの?」
「言わない」
「なんで?」
「知らない方がいいから」
「は?」
「なんでもない」



聞こえないふりをした。
彼がなんでもないと言ったから。



日が落ち、光が入らなくなった室内は真っ暗で、
それでも彼は明かりをつけようとはしない。



「電気つけようか?」



リモコンに手を伸ばしかければ、その手は彼の手で静止された。


私の腕を掴む彼の手は、感情がないんじゃないかと思うくらい冷たくて、
それなのに、暗がりにぼんやりと見える彼の顔は苦しいぐらいに悲痛だった。



「言えば、いいのに…」
「うん」
「嘘つき、言わないでしょ。言わないくせに…」
「うん」



彼が苦しいと、私の心が軋む。
支えてあげられるなんて思ってるわけじゃなくて、
助けてあげられるなんて思ってるわけじゃなくて、
ただ、苦しいんだと、辛いんだと、言って欲しいだけだった。


だって彼が壊れてしまうのが一番怖いから。
私の傍からいなくなるよりも、
彼が苦しんで苦しんで、
壊れてしまう方が、
私にとっては一番辛いこと。



苦しいなら吐き出せばいいのにっていつだってそう思う。


本当は言いたい。
過去は忘れられないんだって。
忘れなくていいんだって。
全てを辛いものにしないでよ、って。
それは悲しいことだよ、って。


でもね、
彼の過去なんて私はわかってあげられない。
だって私は彼じゃないから。
彼の過去を、気持ちを、わかってあげたいと思ったって出来ないことはあるってわからないほど馬鹿じゃない。
踏み込んじゃいけない場所もあるってわからないほど子供じゃない。

だから、言わなくて、言えないの。



それでも、言って欲しいなんて、なんて私はわがままなんだろう。



「ごめん…」
「なんで」
「いつも頼ってばっかだから俺」
「馬鹿だな、何言ってんの」



頼ってなんかないでしょ、
何も言ってくれないじゃない、



心はそう言っていた。




「でも、ごめん…」



それがなんのごめんなのかなんて、考えたくもなかった。

錯覚した、彼が私の傍から居なくなるんじゃないかと。



彼のこと好きなのに、何も出来ない自分。
彼の特別にもなりきれない自分。
彼が心を開ききってくれない自分。
そんな自分に、辟易して、涙が込み上げる。



「お願いだから…謝んないでよ…」



明かりがついてなかったことにホッとした。
この涙だけは彼に見られたくなかった。


彼の為じゃない、自分の為に流した涙なんて。







貴方が私をって、めて、しめばいいのに。





(そしたらすぐにでも、彼を抱き締められるのに)





20120122.

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