悠久の時の果て
□Act.0
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とくり、とくり…。
嗚呼、心臓の音が段々微弱になっていく。
弱まりゆく鼓動を感じながら、空を見上げると。
−…嗚呼、憎らしい程に
綺麗で、残酷な光を放つ満月が浮かんでいる。
それから視線をそらしながら、小さく笑った。
【今】の私の終わりは近い。
けれど、私はそれに恐怖感を微塵も感じていなくて。
ただ、【今】の私に終焉を与えた彼を想った。
「…どうして…っ」
そう言って、私の為に泣いてくれた優しい貴方を、きっと【次】の私も忘れない。
幾度輪廻を廻ろうとも、忘れない。
『…嗚呼、また私は月(おまえ)にみとられるのか…』
死に逝く私を嘲笑うかのように、綺麗な月光が私を照らす。
自嘲の笑みを浮かべた私に、また彼は語りかけてきた。
〈…嗚呼、お前はまた死を享受するのだな。〉
−…随分おかしな事を言うのだな。
私にとって、死は安らぎでしかないというのに
〈哀れな。大切なものを見付けていながらも。失う事を恐れられないなんて…〉
−…そうだな。
だから、おまえはまた、私を生かすのだろう…?
〈…そうだ。それが、お前にかけた古(いにしえ)の呪いなのだから…〉
『嗚呼、月よ…。おまえはまだ私を赦さぬのだな…』
私の言葉は、何も残す事なく、ただ残酷な月明かりのもと、やんわりと溶けていった。
それを隠すかのようにあたたかな光を放って、月は彼女を看取った。
(その光の中少女は旅立った、新しい月の元へと−…)