短編

□過去拍手
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『…おはよう、キッド』

家のリビングから、朝日の覗きはじめた空を窓越しに眺めている刹那を見つけて。
すっと近づいて、声を掛けようとすると

『今日は随分と早いんだな』

振り返る事なく言葉を投げ掛けられる。

全く、魂の波長を感じるのが早くなったものだ。と、心の中でぼんやり考えながら。

「刹那こそ」

端的に言葉を返すと、ほんの一瞬だけちらっと視線を寄越してから

『確かに、な』

くすり、小さな苦笑を零してまた視線は窓の外。
それにたいした意味はないのだろうが、ちくり、小さな胸の痛みを感じる。

「…そんなに毎日空ばかり見ていて、よく飽きないな」

それを隠したくて、きゅっと俯いて、搾り出した言葉は己の意に反して何処か皮肉っぽい響きを有して聞こえる。

はっとそれを自覚してすぐに、気を悪くしたんじゃないかと不安になって、慌てて刹那に視線を向けると。
一瞬目を見開いて、すぐに切なそうに微笑んで

『…そう、だな。私はどうやら空を見るのが好きらしい』

そう言って、すぐに淡いピンクのカーテンに手を伸ばして、シャッと音を立てながらカーテンを閉めて、窓から一歩離れる

「…あ…っ。…刹、那。その俺は別に…」

瞬間過ぎった小さな苦笑に、すぐに理解する。
俺の先程の発言のせいで刹那は空を見る事をやめたのだと。
−…俺の下らぬ嫉妬のせいで

急いで弁解しなくては、と口を開くと。

『すまなかったな、キッド。』

「…え」

そっと俺の口元にしなやかな指先を添えて、ふるふると首を振って、淡く微笑んで。

『お前がいながら、まともに会話をしなかった私が悪かったな』

告げられる言葉は優しくて

『次からは気をつける』

何より残酷だ。

「…刹那。…違うっ、俺が」

言いかけてすぐに、ぐっと押し黙る。
今彼女の瞳に映るのは俺だけの筈なのに、その瞳には俺は映ってなど、いないのだと理解したから

−…嗚呼、月だけでなく空までもが彼女を縛り付けるのか

届かない

(触れたくて、触れられなくて、苦しくて)
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