二次小説(ごちゃ混ぜ)

□うたが聞こえる
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歌が聞こえる。

男性か女性か、どちらが歌っているのかわからないくらいに、透明で中性的な声。
歌詞がついているわけではないのに、歌い手が何を思って歌っているのか伝わってくる。
静かな静かな歌。

「…魂鎮めの歌?どこから…」
飛鳥井柊一は歌声を頼りに、森の中を歩く。
やがて開けた場所に出ると、季節でもないのに満開に狂い咲いた桜の木の下に、少年が一人。

「楠木一人でなんでこんなところに…?」
柊一が辺りを見回しても、自分と少年以外いる気配は感じられなかった。
柊一の存在に気づくことなく、ただ歌い続ける少年の邪魔をしないように、少し離れて少年の姿を追った。

自分とは違う組織に属しながら、自分と同じ、下手をしたら自分よりも強い鎮魂の力を持っている少年、楠木誠志郎は、ただひたすらに歌い続けている。
…少年と呼ぶよりも、彼の年齢からすれば青年と呼ぶべきなのだろうが、彼に関して青年は似合わなかった。
どちらかといえば、まだ高校生の柊一のほうが青年と呼ぶにふさわしいかもしれない。

桜の木に目をやると、そこにはぼやけているが着物姿の女が立っていた。
「あれか…」
柊一はそうつぶやくとポケットの鈴を確かめるように握った。
どちらかといえば、柊一の属している御霊部の仕事の領域だ。誠志郎がしくじった時のことを考え、いつでもフォローに入れるように構える。

それから程なくして、着物姿の女は光に包まれて上へ上がり、歌い終わった誠志郎はそのまま力なく倒れる。
「っ楠木!」
柊一は地面に衝突するすれすれで誠志郎を抱きとめる。
魂鎮めの歌は相当力を使うのだろう、抱きとめた時には誠志郎は気を失っていた。
「楠木…」
地面に衝突させる前に抱きとめられてほっとしたのか、柊一は誠志郎の霊力のある「証」、金色に染まった前髪をそっとなでた。
そのしぐさは、いつもの態度とは真逆で、とても優しげだった。


「ん…」
しばらくして、気を失っていた誠志郎が目を開けた。
「…あ…すかい?」
「大丈夫か?楠木」
「!?何で飛鳥井がここにいるんだ?」
がばっと身を起こして誠志郎が問う。
「…それはこっちのセリフだ。何で楠木一人がここにいるんだ?」
いつもだったら、放火魔かオサキ持ちどちらか、もしくは両方が一緒にいるはずなのに。
「いやぁ…今回はさ、この近くの家から木箱をもらってくるだけだったから、一人だったんだよね。で、木箱をもらって帰ろうとしたらなんかこっちに誘われてさー。
この木が、なんか寂しそうだったから」
「で、魂鎮めの歌を歌ってやって倒れた…と?」
「…もしかしなくても、飛鳥井怒ってる?」
「当たり前だ。たまたま僕が近くにいたからいいようなものの、一人で倒れて他にもいたらどうするつもりだ」
「うー…ごめん」
「倒れた時はびっくりしたんだからな」
しゅんとしてうつむいた誠志郎を柊一はぎゅっと抱きしめる。
「…飛鳥井、心配してくれてありがと。
飛鳥井は仕事で来たの…ってもしかしてこの木だった?」
だったらごめん、誠志郎はあやまる。
「え?違う違う、また別件だ。終わって戻ろうと思ったら、歌が聞こえてきたから…近づいて見ただけだ」
放火魔とオサキ持ちがいたら即行離れる気だったけど。
「じゃ、仕事は全部片付いたの?」
「あぁ、それがどうかしたか?」
「ん?一緒に帰れるなーと思ってさ」
「そうだな」
かなり疲れているのだろう、ふらつく誠志郎を抱き寄せて、柊一はゆっくり森から出た。
「飛鳥井?方向違うよ」
駅はあっちと歩いている逆方向を誠志郎は指差す。
「今日は、僕が世話になってる神社に泊まれ。
で、明日一緒に帰ろう?」
こんな状態で長距離移動などさせられるものか。
「え、いいの?」
迷惑なんじゃ…誠志郎はためらう。
「大丈夫だよ。人一人増えるくらい大したことじゃない。いいから、行くぞ」
第一、拒否ってもそんな状態で一人で帰れないだろう?
「う…」
正直、立って歩くのにも柊一の支えなしではきついのに、一人で帰れるわけがない。
「…いいの?」
もう一度誠志郎は問う。
「他のヤミブンなら嫌だけどな」

お前は、別。

「ありがと」
誠志郎の極上の笑顔に、柊一は思わず誠志郎を抱きしめた。

end

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