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□(P・つ)ママとパパの話
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もしも。
もしも、この子が父親似だったら。
「そりゃ俺のように非の打ち所がない人間になるだろうな」
ベッドに横たわりながらさらりと言いのける夫を無視して、私は膨らんでいるお腹──じきに生まれてくるであろう我が子──に視線を落とした。
この子が父親似だったら。
確かにルックス良し成績良し運動神経良しで完璧な子になるかもしれない。でも、傲慢で自分勝手で、そのうえ変態だったら…。そう思ってしまうと、不安は募るばかりで。
あぁ神様、いるんだったら変なところは父親に似せないでください。
こんなの一人で十分です。
そんな願かけを脳内でしていたのも知らずに、先生は話を続ける。
「そうだ、俺に似たなら女にももてるぞ。毎日違う女といたりしてな」
なに言ってるんですか、そう先生をたしなめた後、私はそろりとベッドに向かう。隣に座ったら大きな手が私のお腹を撫でてきた。
「でも、コイツは俺の女だからな。奪おうとしたら息子といえど容赦しねェぞ」
口元に柔らかな笑みを浮かべながら彼は存外優しげな声で言う。するとそれに応えるかのように、お腹の子供は中から勢いよく蹴ってきた。
微笑ましい光景だな、そう思って目を細めれば彼の手がお腹から私の頭に伸びてきてくしゃりと撫でられる。
「くすぐったいですよ…」
「お前が可愛い顔するからだ」
「馬鹿なこと言わないでください」
あぁ、でもやっぱり、父親似でもいいかもしれない。
呆れるほどに誰かを愛せるのなら。
END