Normal 2


□美しいもの
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いつものように愛人通いをした帰りの朝だった。



ぱらぱらと雨が降り始めたことに男は気付いた。濡れて服が張り付くことを嫌う彼は早足で雨をしのげる場所に移動する。まだ閉まっている店の軒下に入り込み、壁によりかかった。
少しだけ濡れたコートのポケットから煙草とマッチを取り出す。湿気ってはいなかった、火をつけ大きく吸うと煙が肺に入ったのを感じた。

煙を吐いて正面を見ると、彼は違和感を感じた。雨が白いのだ。白いベールのように景色を霞ませている。
不審に思って空を見て、それで彼は納得した。

空は晴れていた。天気雨だ。差し込む朝日が雨に反射して白く見えただけだった。
男は小さく笑い、煙草を落として踏み消す。珍しいものが見れた、そう思った。

しかし、何か物足りない気がした。こんなに美しく珍しい光景を目の当たりにして、それでも何か物足りない。
何か考えた結果、頭の中に弟子である白い子供が浮かんだ。

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