Normal 2
□森の中で
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僕は師匠の後ろについて、ただ無言で歩いていた。師匠が無言だから僕も無言、それだけの理由だ。
今どこに向かっているかなんて、知らないし知る必要もなかった。気分屋の師匠のことだ、気の向くまま進んでいるのだろう。内心ため息をつく。
ひたすら師匠の背中しか見ていなかったため気が付かなかったが、僕らは森の中にいた。うっそうと茂る木々の葉で空は切れ切れとしか見えない。
風に揺れてざわざわと騒ぐ音が何となく不気味に思えて、無意識に前を歩く師匠のコートの裾を掴んでいた。急に師匠がぴたりと足を止めたため、そのそいで僕は師匠の背中に頭突きをくらわしてしまった。振り返り、じろりと睨まれる。
「す、すみません…」
頬をひきつらせながらも謝れば、いつもの鉄拳の代わりにため息が落とされた。それからぐいっと左手を引っ張られる。僕が声をあげる間に、左手は師匠の右手と繋がれ、それからぎゅっと握られる。
「怖いなら初めから言え」
「べ、別に怖いわけじゃ…」
反論するも内心図星だったため、つい小声になってしまう。
鼻で笑われてしまって、かっと頬が熱くなった。
手を繋いだまま、今度は師匠の隣を歩く。さっきよりは気分が若干良くなったので、他愛もない世間話をしながら深い森を進んでいった。
ふと師匠が僕の名を呼ぶ。どうしました、と尋ねればこんな言葉が返ってきた。
「お前はアクマを信じるか?」
僕は一瞬きょとんとする。だってアクマなら、僕らの破壊対象じゃないか。
すると間髪入れずに師匠がそっちじゃないと言う。まだ言葉にしてなかったのに。この人、僕の心読めるのかな。
「『AKUMA』でなく『Devil』の方だ、お前、信じるか?」
少し考えて、僕は深く頷いた。だって隣にいるから、とは恐ろしくて言えない。
「悪魔の中には人の心を惑わす奴がいる。愛する者を夢に出して、永遠に夢の中に閉じ込めてしまう。閉じ込められた奴は、それを現実だと思い込んでしまうため、永遠に気付かない」
「怖いですね」
「どうだかな。俺だったら最高だと思うぜ、辛い現実から離れて、永遠に愛しい奴といられるのだから」
そう師匠が言ったので、僕は思わず視線を向けた。
おかしい。
何かが、変だ。
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