Parallel
□自由か愛か
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「不法侵入が犯罪だってこと位、世界的権威のクロス・マリアン博士なら知ってますよね」
笑顔でそう言うのはルベリエ氏。政府の上層部に位置する程の地位を持ち、しかし上の役人を陰で操っている程の実力も持っていた。
「研究のため、ねぇ…。そんな理由で不法侵入が正当化されると思うんですか?」
「ここには詳しい書物もデータもある。研究者とは時に研究のため命がけの行為をするもんだ」
厭らしい笑みを浮かべたルベリエ氏に臆することなく平然と彼の前で煙草に火をつけるクロス。
だが彼は次のルベリエ氏の言葉で目を見開いた。
「あなたの助手は、実に綺麗な顔をしてますね」
「……!」
クロスは今しがた点けたばかりの煙草を灰皿に押し付ける。
「どういう、意味だ…」
「そのままの意味ですよ、マリアン博士。顔と腕に醜い傷跡があるが、それ以外は実に美しい。あの子を人買いに売ればきっと高く売れますよ。その金で、あなたは法的手続きをとって不法侵入を取り下げればいい」
クロスは思い切りルベリエ氏を睨む。だがルベリエ氏は相変わらず笑みを浮かべるばかりだった。
「簡単ですよ、マリアン博士。あの助手を売って金を得ればあなたは自由。金を用意できないのなら、あなたは犯罪者としてこの国に縛り付けられる。研究のために借金まみれなあなたにそんな金は無いと思って教えてあげただけですよ」
どちらを選びますか?
ルベリエ氏を睨みながらクロスは黙って立ち上がった。
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