Others
□(N・も)再会
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どうして再びこの地に出向いたのか、それは自分でもよく分からない。
俺は『記録者』だ、個人的感情で動いてはいけないことくらい分かっている。それでもここに来たのは、心のどこかで『49番目の自分』が生きているからなのだろう。
以前来た、といってもまだ数ヶ月前の話だ。変わったのは季節くらいで、それ以外は全く変わっていない。つい自嘲の笑みがこぼれる。
以前と同じように町の外れにある草原に行く。やはり以前と同じように、そこには少女が駆け回っていた。
「マーリアちゃん」
声をかけると少女はこちらを向いた。
満面の笑顔は、母親譲りのそれだった。
朱金の瞳に、少しだけ日に焼けた肌。ゆるやかな波を描いていた赤く長い髪は、今は三つ編みされている。
「自分で編んだのよ。パパで練習したの」
自慢げに話すマリア。まだあどけない顔立ちからこぼれる声は、母親よりも少し高い。大人っぽい口調は背伸びしてるようで微笑ましかった。
俺は屈んで彼女の頭を撫でる。嬉しそうに目を細める様子はやっぱり母親そっくりで、でも俺はわずかに感じた胸の痛みに気付かないふりをした。
「マリアは器用だなー。ママは不器用だったけど」
「左手がないから?」
「あー…」
しまった。
内心焦ったが、彼女はさして気にしていないようだ、数回まばたきした後ふにゃりと笑った。
「いいのよ、マリアがママの左手になるんだから。パパだってそう言ってたもの」
「そうか…」
「それより、お兄さん!!うちに遊びに来て?ママに会いたいでしょ?」
マリアはそう言うなり、俺の腕をむんずと掴んだ。そうして返事を待たずに歩き始める。
強引なところは二人に似てるな、まったく。
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