Parallel
□夢
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一応僕は記憶喪失ということになった。だから例え僕が知っている人がここにいたとしても、僕は知らないふりをしなければいけない。これは面倒だ。
鏡を見ると、僕の左腕には火傷はなくて、その代わりに『腕ではないもの』があった。リンクに尋ねてみると、イノセンスという物質らしい。よく分からないけど。
「あなたのことだから空腹でしょう、食堂にでも行きましょうか」
リンクにそう促され食堂に行く。席に座るとある異変に気付いた。
多くの人が僕を見ている。しかも憎悪の混じった瞳で。
今まで軽蔑や同情の眼差しはあったが、こんな視線初めてだ。僕はリンクに耳打ちする。
「僕、嫌われてるんですか?」
「いや、違う。君は敵側の人間かもしれないからだ」
リンクは眉を寄せて言った。
「敵側?何の?」
「戦争の、ですよ。でもそれは君ではない。君の中にいる『もう1人の君』が敵なんです」
全く意味が分からなかった。つまり僕は二重人格なのだろうか。
食事を終えて廊下を歩く。途中で見知った人に数人会ったけれど僕は知らないフリをした。
本当は話したかったんだけどな。
そういえば。
僕はある疑問をリンクにぶつけることにする。
「教授がいないって、どういうことなんですか」
リンクは答えない。何度も尋ねると、渋々口を開いた。
「ちょっと移動しましょうか」
僕はリンクの後についていった。
「──どうぞ」
通されたのは小さな部屋。
窓ガラスが割れている。よく見れば窓の下は大量の血で染まっていた。そんなおぞましい場所に金色のボールが置かれている。
「ここは…?」
リンクは何も答えない。その代わりとでも言うように、金のボールから羽が生えてこちらに飛んできた。
「ひぃっ」
僕は慌ててリンクの後ろに隠れる。リンクは何でもないかのようにそれを捕まえ、僕の肩に置いた。
「これはティムキャンピー、クロス元帥のゴーレムです」
ゴーレムの意味も分からなかったが、それよりも彼はこれを『ティムキャンピー』と言った。
僕の息子の名前を。
リンクはため息をついて僕を見る。
「色々ショックなことが多いとは思いますが…。君には言わなければいけないことがある」
そう言ってリンクは割れた窓に視線を移した。
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