Others


□Gymnopedies
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──雨が、降っていた。





朝から降り続ける雨に、いつもは賑やかな往来も人影はなかった。
ぼんやりと窓を眺めている少年。後ろでは男がソファーに座って分厚い本を片手に読書している。



さみしいですね。



窓に目をやったまま少年は呟く。男はちらりと彼を見るだけで、返事はしなかった。
少年は気にせず、また言う。



雨は、嫌いです。



男からの返事はない。
雨音と本のページをめくる音のみが部屋に響く。



そっち、行ってもいいですか?



男は本から目を離し、少年を捉えた。それからふんと鼻を鳴らし、左手でソファーのクッションを叩く。
少年は数回まばたきした後、わずかに頬を緩めて走り寄った。









トタン製の庇は雨に打たれてぱたぱたと鳴り、往来には相変わらず人の姿はない。
少年は退屈そうな様子でソファーに寄りかかったまま足をぶらつかせ、それからちらりと横を見た。隣では相変わらず男が読書をしている。
そのままじっと見ていたら、男はため息をひとつ吐いて本を閉じた。



もういいんですか?



それには答えず、おもむろに手を伸ばして少年の頭を撫でる。あんまり気持ちよくて目を細めていたら、撫でる手は鉄拳へと変わった。
涙目になりながら頭を押さえる少年。それで男はようやく表情を緩めた。









そわそわと窓をしきりに気にする少年。男が声をかけようとしたそのとき彼は立ち上がり、窓の方へと走り寄って行った。



雨、やみませんね。



心底残念そうに言う少年の顔は窓ガラスに映る。



やんで欲しいのか?

えぇ、もちろん。



至極真面目な少年の様子に、男はくつくつと笑う。



落ち着かない奴だな。

だって…。

こっちに来い。



唇を尖らせて少年は渋々ソファーに戻る。



僕、雨は嫌いです。さみしいです。

だから何だってんだ。

……。



少年は口をつぐむ。
男は笑う。



言ってみろよ。

…もう少し、そばに寄ってもいいですか?



顔を真っ赤にしながらそう言う少年の肩を、男は強引に引き寄せその耳元に囁いた。



───。



少年はますます顔を赤くし、それから困ったような笑みを見せた。









──雨が、降っていた。



部屋には、ふたりだけ。





END

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