12/09の日記
23:52
久々に小ネタ
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とある小さな村から少し離れた場所に、その男は住んでいた。
男には妻がいた。美しい妻だ。感情表現に乏しい男のぶんまで補うかのように表情豊かで、誰からも愛されていた。男は妻を愛していた。彼女も男を愛していた。
男はいわゆる科学者だった。その膨大な知識を使って、薬や機械を作って生計を立てていた。男の功績で村は栄えていた。
男は幸せだった。
ところが、男は愛する妻を失ってしまった。
雪に足をすべらせ頭を強く打ち、男の目の前であっけなく死んだ。本当に、あっけない死だった。
男はからっぽになった。薬や機械を売るとき以外は外へ出なくなった。村の人々は男に同情したが、男自身が他人を拒む性質だったため、何もできなかった。
からっぽになった男は少しずつ狂い始めた。そして、妻が死んでちょうど一年経った晩、ついに男は悪魔に魂を捧げた。
「──博士、食事の用意ができました」
ぱたぱたと足音をたてて男の部屋を覗き込み、彼女は言った。
あぁ、とだけ返事をして男はゆっくりと立ち上がる。振り返ると彼女はまだその場にいて、視線が合うと頬を染めて笑った。
彼女は人間ではない。
男が作り出したものだ。
男は妻の墓を掘り起こし、妻の死体から髪の毛と骨を取り出した。それをもとに生み出した。何をか。ホムンクルスだ。
悪魔の所業。禁じられた技術。それを男はやった。禁忌を犯した。
ホムンクルスは基本的には人間と変わらないが、母体から生まれたわけではない。妻のホムンクルスである彼女はフラスコの中で『発生』した。妻の形質をそのまま受け継いではいるが、大きく違うのは白い髪と左頬に刻まれた赤い刻印だろう。ホムンクルスは所詮人間ではないため、このような欠陥が生じる。
ホムンクルスは完璧な人間ではない。ゆえに寿命もまた短い。
彼女の白い肌は、よりいっそう白さを増した。細い体は今にも崩れそうで、はかない。いったい彼女はいつまでもつのか。
男は思う、その前にもう一つ禁忌を犯そう、と。
手招きして、彼女を呼び寄せる。のこのこと近付いてきた彼女の体を持ち上げ、膝の上に座らせた。
「博士…?」
彼女は不思議そうに男を見る。当然だ、彼女は何も分かっていない。男がこれから何をしようとしているかなど。
啄むように口付けて、そっと彼女の服に手をかけた。ホムンクルスに生殖機能はあるのか分からないが、あって欲しいと願う。
お前が死ぬ前に、お前の遺伝子を持つ子を残そう。
それを俺はお前と思って愛する。
それなら今度はずっと一緒だ。
お前とずっと、一緒だ。
狂気に冒された男の目には、失ったはずの妻しか映っていない。
END
久しぶりなので小ネタにしてみましたが、なぜパロにしたんだ自分…。
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