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IFシリーズ05





カランコロンと下駄特有の足音を響かせながら、浴衣を来た二人の男女が街道を歩いていた。

「弦一郎、早く早く!」

やや前を行く少女――レイは振り返ると、後ろを歩く少年――真田に向かって手招きする。

「そんなに急かすな。祭は逃げん」

「だってこの世界(コッチ)のお祭りは初めてなんだもん。楽しみで楽しみで」

ニコニコと笑うレイを見て、真田は思い切って誘って良かったと心の底から思った。
――事の発端は、数日前。立海大附属中男子テニス部が全国制覇をした日まで遡る。
この全国制覇の立役者として、真田と柳、面識はないが幸村と言う一年レギュラーが大きく貢献したというのは、立海に通う者ならば殆どの生徒が知っている事実だ。
勿論、レイも例外ではなく、お祝いに何かプレゼントを真田に贈ろうと考えていたが、いざ贈るとなると何を贈っていいのか解らず、結局本人に訊ねたのだ。この時、真田が以前骨董品屋で見つけたという壺が脳裏を過ったが、金額的に中学生が買える金額ではない(レイに言わせればはした金だが)のと、プレゼントとしては可愛くないので、彼女の中で却下となったのは余談である。
真田に事の次第を説明すると、やはりと言うべきか、そんなに気を使わないでもいいと遠回しに突っぱねられた。
ごり押しも可能だったが、それではプレゼントの意味がないのでレイの方が折れたのだ。
その流れで代わりに今日の祭に一緒に行って欲しいと真田から代案が上がったのだ。
まさか逆に誘われると思ってなかったレイは驚いたが、断る理由はないので、二つ返事で了承した。
真田にしてみれば、まさに清水の舞台から飛び降りるような勢いだった為、レイが了承してくれた事に安堵の息をついたのは言うまでもない。……といっても、これを知るのは本人と、台所で然り気無く聞き耳を立てていた真田の母、美代子だけである。

「でも、ホントによかったの?」

「同じ事を何度も言わせるな。誘ったのは俺の方なのだしな」

「そうだけど……」

まだ納得いかないと少しむくれるレイに真田は嘆息する。

「今回の全国制覇は、俺達テニス部員だけでなく、レイの貢献も大きい」

「いや、それは弦一郎限定の話でしょ。私がテニスのアドバイスしてるのって、立海じゃ弦一郎だけなんだし」

「それでもだ。結果的に、その助言が実を結んだのだからな。……お前の気持は嬉しかったが、俺だけ贈り物を貰うのは……なんと言うか、忍びなくな」

「えっと……要約すると、自分だけの力で全国制覇したわけじゃないから、抜け駆けみたいで嫌だって事?」

「………」

真田は無言のまま肯定の意を示した。
律義というか何というか、そこまでくると論点が違う気がするが、そこはあえて何も言わないでおく。

「……そ、それに、だな」

「ん?」

「……先程言ったように、レイの力も大きいと俺は思っている。だから、その、だな……ふ、二人でどこかに出かけた方が、た、互いへの褒美になると、思ったのだ」

真田の言葉を直球で言うなら、“二人きりで祭に行きたかった”という事なのだが、彼がそんなどストレートな言葉を言える訳がない。真田をよく知る人物から見れば、自分からレイを誘い出せただけでも胴上げ物なのだが、逆を言えば今の真田にとってはこれが限界だった。
そんな真田の胸中には全く気づいてないのか、レイは小さく吹き出す。

「……なんだ」

「いや、だって、弦一郎どもりすぎ……!」

相当ツボだったのか、レイは片手で腹を抱え、もう片方の手で口元を押さえながら笑う。

「………」

真田は脱力したように肩を落として嘆息すると、早足でレイを追い抜いて行ってしまった。

「あ待って!」

レイも慌てて真田の後を追いかけた。




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