IF
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文句を言っても仕方ない。
どうせ還れないなら、楽しもう
IFシリーズ 1
見知らぬ部屋のベッドで目が覚めたレイは、身を起こして辺りを見回す。
最低限の家具しか置かれていない部屋。カーテンと窓を開けてベランダに出てみれば、この部屋は二階だったようで、眼下には平穏な住宅街が広がっていた。
一つ目を引く物があるとすれば、隣の大きな日本家屋ぐらいだ。
「あんまり代わり映えしないなぁ」
レイはぽつりと呟いた。
元の世界でも、このような光景はどこにでもある。だからこそ、本当に別世界に飛ばされたのかが疑問に思えてきた。
時間を確認すれば午前六時。流石に二度寝する気にはなれないので、レイは部屋に戻るとリビングに降りた。
「――ん?」
リビングの机の上に無造作に置かれていた紙に気付いたレイは、それを手に取った。
「手紙って事はあの神サマからか……」
小さくぼやくと、手紙に目を通す。手紙には、この世界に関する事が書かれていた。
要約するに、レイは昨夜この土地に引っ越して来たばかりで、来週から小学生として学校に通う事になっている。
レイは14歳なので、本来であれば中学生だが、世界を超えた反動で身体が若干縮んだらしい。成る程。目が覚めてから視界が低かったのが気になっていたが、どうやらそういう事らしい。
両親は既に他界しており、巨額の遺産――本当はレイ本人のお金だが――を元に一人暮らしをしている。親戚はおらず天涯孤独という設定らしい。
身体能力はそのままで、勿論念は使用可能。ただし、この世界に念は存在しないので多用は禁物との事。
思っていた以上に簡素な設定で助かった。
「学校か……」
まさか無縁と思っていた場所に通う事になるとは。
物心ついてから生きるために盗みや殺しをしてきた身としては、生ぬるい環境になるかもしれないが、秘かに憧れていたので、同時に楽しみでもあった。
手紙の最後に簡単な地図が書かれていたので、家中の探索がおわったら、散歩がてら場所の確認といこう。
思い立ったら即行動と言わんばかりに、レイは手紙しまうと、冷蔵庫の中を確認しようとキッチンへ向かった。
昼近くになって家を出たレイは、先にやや早い昼食を済ませた。食材があれば家で済ませても良かったのだが、冷蔵庫の中は見事に空っぽだったのだ。ただ幸いと言うべきか、元の世界で使用していたパソコンや衣類といったものは部屋にあったので買う必要はない。立海大附属中の場所を確認してた後、スーパーで食材を調達して帰路につく。
「こ……だ!……よ!」
「…ぜ……か!」
「――ん?」
帰り道、何やら激しく言い合う声が聞こえ、レイは足を止めた。
声がした方へと向かうと、テニスコートが見えて来た。そこでは、レイと同じくらいの背丈の少年が中学生くらいの少年四人と言い争いをしていた。
「だから、このコートはダブルス専用なんだよ!」
「俺は何回かこのコートに来ていますが、そんなルールは聞いた事ありません!」
「オレらの中ではそうなってるんだよ」
「それはあなた方のルールであって、このコートのルールではない!」
少年の言葉は最もだが、相手が持論を押し付けてくる時点で聞き入れてはくれないだろう。
厄介事は御免だが、見て見ぬふりというのも気が引ける。
レイは嘆息すると、手荷物を一旦次元ノ狭間に格納し、コートに入った。
「ねぇ、おにーさん達」
割り込むようにしてレイが言い放てば、五人がいっせいにこちらを向いた。
そのシンクロの良さに小さく笑いながらも、レイは五人の元へと歩みを進める。
「何だお前」
「ただの通りすがりですよ。それより、そんなにダブルスにこだわりがあるなら当然、お強いはずですよね?」
「当たり前だろ!小学生に負けるわけがねぇ」
一人の言葉に、残りの三人はそうだと頷いた。
「――っ」
何か言い返そうとする少年を片手で制すると、レイは胸中で溜息をついた。
やっぱり馬鹿だ。こいつら。
実力に年齢性別は関係ない。この中学生達は、自分達より年下は弱いと決めつけ、年上だから強いというありもしない序列を押し付けて優越感に浸りたいだけなのだろう。
ならば、やる事は一つ。
レイは不敵な笑みを浮かべた。
「年下が年上に勝つわけがないと、そういう事ですか?」
「だから、そう言ってるだろ」
「じゃあこうしません?今からダブルスで試合をして、私達が勝ったら今回はコートの使用を諦めてもらいます」
「はぁ?なんでそうなるんだよ」
「だって、アナタ達は私達より強いんでしょう?私達が勝つのはあり得ないと言うのだから、アナタ達にとってのリスクは低いと思いますよ」
そこまで言われてしまえば、中学生達も引くわけにはいかない。
「……いいぜ。やってやるよ」
「お手柔らかに」
にこり、と微笑むと、お互い準備の為に踵を返す。
何か言いたそうな少年の視線を受けて、レイは苦笑した。
「キミの言い分は正論だよ。でも、ああいう奴等は実力で黙らせた方が早いからね」
「だが……」
「安心して。足は引っ張らないから」
「……わかった」
まだ何か言いたそうではあったが、少年は渋々といった様子で頷いた。
「あ、一つお願いなんだけど」
「何だ」
「ラケット、貸してくれない?」
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