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IFシリーズ 2
翌日。レイは一人で神奈川から東京都内の大型ショッピングモールを訪れた。
最初は真田についてきて貰おうと思ったのだが、今日は彼が通っているテニススクールで練習試合があるらしく、一緒には行けないと断られたのだ。
レイがテニスを続けたいと話すと、真田の表情が目に見えて明るくなったのは余談である。
先にパソコンのパーツといった機材や日用雑貨を購入し、最後にスポーツ用品店に入った。
店内は広く、ネットでも評判は高かったが、品揃えも中々のものだ。
レイはまっすぐテニス用品が陳列されている棚へと向かった。
「ん〜、ちょっと軽いかな」
レイは陳列されている棚からラケットを握りながら眉を寄せる。
視線を上げて持っていたラケットを棚に戻し、他のラケットに手を伸ばした。
「〜〜〜!届かない……!」
若干指先は触れているのだが、ラケットを取る事ができない。
視界の端に踏み台があるが、あれを使うとなんだか負けな気がして嫌だ。
元の背丈では届くのにと、レイは歯噛みする。
暫くの間格闘していると、横から伸びてきた手がそのラケットを取った。
「あ」
思わず声を上げて振り返ると、眼鏡をかけた同い年くらいの少年がラケットを手にしていた。
「これが取りたかったのか?」
「……あ、うん。そうだけど」
頷きを返すと、少年はラケットをレイに手渡した。
「あ、ありがとう」
「いや。随分と頑張っていたようだが、今後は店の人を呼ぶといい」
「あ、見られてたんだ」
恥ずかしいなぁと、レイは誤魔化すように頬をかいた。
「君もテニスをするのか?」
「うん。色々あって一回やめちゃったんだけど、引っ越し先でできた友達がまたやらないかって勧めてくれたんだ。そういうキミは?」
「俺もテニスをしている。今日はグリップテープを買いに来たんだ」
「消耗品だもんね。グリップテープって。地味にお小遣いに響くし……」
そう言うと、少年は軽く肩を竦めた。
「まぁ、こればかりは仕方ない。それより、今日はその友人とは一緒じゃないのか?」
「ううん、私一人だよ。今朝誘ってみたんだけど、テニススクールの練習試合があって、どうしても一緒に行けないって」
「そうか」
少年は頷くと、しばし考えてから口を開いた。
「俺で良ければ買い物に付き合うが……」
レイは目を瞬かせた。
「え、でも、迷惑じゃない?」
「迷惑だったらこんな事言わない。君が良ければの話だが」
レイは少し考える。
テニス歴二日目のレイは、まだこの手の道具を選ぶ知識が薄い。
少年からの申し出は願ってもない事だ。
「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「勿論だ」
申し訳なさそうに眉根を下げるレイに、少年は快く頷いた。
買い物終了後、レイは付き合ってくれたお礼がしたいと遠慮する少年を半ば無理矢理引っ張り出し、ショッピングモール内のファミレスにやってきた。
「――じゃあ、手塚君も同い年なんだ」
「あぁ。春から青春学園に通うつもりだ。レイはこの辺りの中学に通うのか?」
少年――手塚の問いに、レイはかぶりを振った。
「ううん、私は神奈川在住だから、向こうの中学だよ。どこにしようかはまだ決めてないけど」
手塚は目を僅かに見開いた。
「神奈川に住んでるのにわざわざここまで来たのか?」
「ネットの口コミで、ここのショッピングモールが結構いいって評判だったから、探検がてらにね。手塚君はここにはよく来るの?」
「あぁ。ここのスポーツショップは物が充実しているからな」
「そうだね。評判通りで安心したよ」
素直に頷くと、レイは紅茶を啜った。
「――って、長話しちゃったけど、大丈夫?」
「問題ない。そう言うレイこそ帰りは長いだろう」
こちらを気遣う手塚に、レイは苦笑した。
レイにしてみれば瞬間移動もあるし、走って帰ろうと思えば帰れる距離なので問題ない。
「心配してくれてありがと。私なら平気だよ。けど、あまりズルズルいるのは良くないと思うし、そろそろお開きにしようか」
「あぁ。そうだな」
手塚は頷いて伝票へと手を伸ばすが、そうはさせまいとレイが先に伝票を取り上げた。
「付き合ってくれたお礼がしたいって言ったでしょ?ここは私に出させて?」
「だが……」
先手を取って言うが、やはりと言うべきか、手塚は納得していない様子。
「気にしないで。その変わり、友達になってくれたら嬉しいな」
手塚の表情が、困惑から驚きに変わる。
「……それは構わないが、それとこれとは話が違うだろう」
「頑固だね……」
――その後、払う払わないの押し問答が続いた結果、結局割り勘という形で話を着地させた。
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