IF

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時は流れて四月。

色々あったけど、今日から中学生です!





IFシリーズ 3





「え、立海大附属中?」

「あぁ。俺はそこを受けようと思っている。レイは受ける学校を決めたのか?」

「うーん……お金の事もあるから無難に公立にしようかなって思うんだ。それに、立海は女テニがねぇ……」

立海大附属中は、男子テニス部は関東大会12連覇という輝かしい成績を残しているものの、女子テニス部は思うような結果が残せず低迷が続き、昨年廃部になったのだと言う。

「選手として男テニに入れればいいんだけど、日本じゃ特待ライセンス制度が導入されてないし」

特待ライセンス制度というのは、女子選手が男子の試合に参加できるという文字通りの特待制度の事だ。欧米を中心に取り入れられているが、日本で導入されたという話は聞いたことがない。
レイはスクールにこそ通ってはいないが、小学校のクラブ活動ではテニスクラブに所属し、そこでは無敗だった。所詮は週に一度のクラブ活動なので、回りの実力などたかが知れていたが。
休日や放課後には真田と打ち合い、用事で東京まで遠出した時は、手塚とも打ち合っていたが、やはりと言うべきか、二人相手にもまだ負けた事がない。これは元々のスペックが全く異なるので仕方ない。
実力で言えばレイは、女子テニスのみならず、男子テニス部にも十分通用すると二人揃って太鼓判を押した程だ。とはいえ、特待ライセンス制度がない以上、レイが男子の試合に参加することはできないが。

「それなら、マネージャーはどうだ?マネジメントや指導も得意だろう」

言われてレイは少し考える素振りを見せたが、すぐにかぶりを振った。

「あの雰囲気じゃ、妬みの恰好の的でしょ。確かに部員達は部活に集中できるだろうけど、別の意味で迷惑かけそうだし。まぁ、降りかかる火の粉は元から絶つけど」

「それを言うなら振り払うだろう」

「言葉の文(アヤ)だよ。振り払った所で、火元がまだ燃えてたらまた降ってくるじゃない」

「確かにそうだが……いや、お前ならやれてしまうか……」

「流石弦一郎。よくわかってらっしゃる」

何処か遠い目をする真田に対して、レイは呑気に笑った。
立海大付属の男子テニス部は輝かしい成績に加え、顔が良い部員が多いため、女子生徒を中心にアイドル的な人気を誇っているのだ。マネージャーとして参加すれば、あらぬ疑いをかけられ色々と面倒な事になるのは容易に想像できた。
先程レイ本人が言ったように、そうなったらなったで元を断つまでだが。

「……だが、あんな思いはもうごめんだぞ」

真田の言葉に、レイの笑みが苦笑へと変わる。

「あの時は咄嗟だったからね。自分でも馬鹿したなって思ってる」

小さな事から起きる虐めというのはよくある話で、二人が通っている小学校でも虐めはあったのだ。
レイと真田が被害者もしくは加害者だったわけではないが、内気で身体が小さい女の子が虐めの対象になっていた。
子供というのは加減というものを知らないので質が悪い。
最初はお決まりの無視から始まり、道具の紛失や落書き、机の上に花瓶と花と、だんだんエスカレートして行った。
元々そう言った曲がった事が大嫌いな真田が先に気づき、教員に訴えかけたが、教員達はその事実を見て見ぬ振り。挙句気のせいの一言で片付ける始末。
クラスメイトに目を輝かせても、見ていない所でやらかしてくれるものだから更に質が悪くなる一方だった。
最終的には相手側がカッターを出して来て暴力沙汰になったのは、まだ記憶に新しい。
その時は間一髪でレイが割って入り、虐められていた女の子の代わりに彼女が腕を何針か縫う怪我をした。
レイがその場から逃げ出そうとした虐めっ子を、血まみれの腕で捕まえた所で、真田が教員を連れてやってきたのだ。

「……あの時の弦一郎の顔、ほんと酷かったよね」

「たわけ。下手したら腕が動かなくなる所だったんだぞ」

「やられたのは利き腕じゃなかったし、傷も出血の割には浅かったんだからいいじゃない」

――正確には念を使って傷を支障がない程度まで治したのだが、それは言うまい。
そう言う意味では、レイが割って入って良かった。
あのまま女の子が斬られていたら、ただでは済まなかっただろう。

「それに、この傷は未央(ミオ)ちゃんを守った勲章だよ?」

言いながら、レイは左腕を掲げた。その腕には、うっすらと切傷の跡が残っている。
因みに、“未央”と言うのは虐められていた女の子の名前である。
これは後からわかった事だが、未央は日本でも1、2を争う大企業、立川グループ総帥の孫娘で、現社長の次女にあたる由緒正しいお嬢様だったのだ。
普段、未央に接する人間は、彼女をお嬢様としてしか扱わない。それは当然と言えば当然の事だが、せめて学校では普通に過ごさせてあげようとわざわざその事実を伏せた親心が仇となってしまうという、何とも言えない結果になってしまった。
だがそうなると悲惨なのは、加害者側の少年の両親と、見て見ぬ振りをしていた教員ないし学校である。
その事実を知った学校側は手の平を返したように、懸命に虐め対策をしてきたをしてきたと主張した。
そう来る事を予想していたレイは、堪忍袋の尾が切れる寸前の真田を抑えながら、彼等の前で淡々と事実と証拠を突きつけた。
それは、虐めがあったという確かな証拠から始まり、真田とレイが抗議した時の教員陣が知らぬ存ぜぬを貫いている会話の録音まで、ありとあらゆるものだった。




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