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「あの時は流石に驚いたぞ。まさかああなる事まで読んでいたのか?」

「ううん。未央ちゃんが生粋のお嬢様だったっていうのは完全に予想外。ただ、状況は違えど似たような事になる事は想定できたからね。よく言うでしょ?論より証拠って」

先人は良い諺を遺してくれたものである。
レイが突きつけた証拠の数々に、教員陣の顔がいっせいに青ざめたのは傑作だと思う。

「私、欲に目が眩んだ人間と、保身に走る人間が大っ嫌いなんです」

とどめと言わんばかりに満面の笑みで言えば、教員陣は戦意喪失。
その後は未央の両親が所謂大人の対応でその場は治まったが、後日校長や教頭を含め、関わった教員達が地方に飛ばされた。
風の噂では、理由が理由だけに、転勤先では仕事は上手く行っていないとか。こればかりは自業自得である。
唯一の救いだったのは、加害者の少年の両親がまともだった事くらいか。
彼等が謝りに来た際、少年が丸坊主だったのには驚いた。ベタではあるが、それが彼等のなりの謝罪の証なのだろうと納得した。
少年の両親は、レイや真田にも未央の両親にも変わらぬ態度でただ淡々と謝罪を伸べた。
教員陣とは違い、その後も誠心誠意な対応をしてくれたのには好感が持てた。
仕事柄人間の醜い部分を嫌と言うほど見てきたが、両親がこのような人間であればひとまず大丈夫だろう。
未央の両親もそう思ったのか訴訟にはせず、レイの医療費を全額負担という形で話を落ち着かせた。
怪我が完治した後も、少年の両親は何かと良くしてくれている。
レイはともかく、これは真田が大人の――強いては人間の――醜さを垣間見た事件であり、彼の正義感が益々強くなった事件であった。
事件以降、未央は氷帝学園の幼稚舎へと転校してしまったが、今も家族ぐるみで付き合いがあり、仲も良好だ。

「――って、かなり話がそれたね。とにかく、立海に入学するかどうかはまだ考え中。さっきも言ったけど、お金の問題もあるし」



「それなら、特待制度を使えばいいんじゃないかしら?」



唐突に割り込んできた声に振り向けば、飲み物とお菓子をお盆に載せた真田の母――美代子(ミヨコ)がいた。

「おば様、立海に特待制度ってありましたっけ?」

「あるみたいよ。確か……あったわ。ほら」

お盆を机の上に置き、広げられていた立海大附属中のパンフレットを何ページか捲った先の項目を指差した。
そこには、確かに特待制度という文字があった。

「条件は、入学試験の成績と入学後の定期試験の成績がその都度三位以内。他に入学試験の時に得意分野の課題提出があるみたいなんだけど、ジャンルとかはないし、レイちゃんは何でもできちゃうから、案外行けちゃうんじゃないかしら?」

美代子の言葉に、レイはしばし考える。
正直な所、お金については全く困っていない。だが、便宜上の理由を考えると、即答するのもよろしくないのではと考え、あえてああ言ったのだ。
かといって他に行きたい学校があるわけでもない。

「確かに、特待制度を使えば学費は浮きますけど……特にやりたい事もありませんし、向上心がない人間が受けてもいいものなんでしょうか?」

一番の問題はそこにある。
真田の言う通り女子テニス部が無いのであれば、男子テニス部のマネージャーになるだとか色々考えたが、先程言ったように迷惑をかける事可能性が高いため却下だ。
不可抗力とはいえ、自分のせいでまわりに迷惑をかけるような事態は避けたい。

「……なら、入学してから考えればいい」

「え?」

レイは目を見開いた。

「……何だ」

「……いや、弦一郎の口からそういう台詞が出るなんて思わなかったから……」

「……俺がそんな事を言うのは悪いのか」

「悪いとか悪くないとかじゃなくて、やりたい事くらい自力で探して見つけろ!くらいは言われると思ったからさ」

「そ、それは、だな……」

黙り込む真田を見て、真田の母が意地の悪い笑みを浮かべた。

「それはねレイちゃん。弦一郎はあなたの事が心配で心配で仕方ないのよ」

「っ、母さん!」

「前にあんな一件があったでしょ?レイちゃんが弦一郎より強いのは知ってるけど、やっぱり女の子なんだもの。私としても、弦一郎と一緒に立海に通ってくれた方が安心だわ」

レイは瞬きをして真田の方を見た。
真田は思わぬ暴露話に照れているのか、そっぽを向いている。
それを見たレイは、クスリ、と笑った。

「……何だ」

じろり、と睨まれると、レイは小さくかぶりを振った。

「ううん。ただ可愛いなーって」

「Σなっ、か、かわっ……!?」

激しく動揺する真田を見て、レイは再び笑う。

「心配してくれてありがと。でも、そういう事を言うには、組み手で私に一回でも勝ってからね」

「………」

まだレイがこの世界に来て半年程だが、真田とはテニスだけでなく、たまに組み手の相手もしていた。結果は言わずもかな、レイの全戦全勝。
今現在も無敗記録は更新中である。




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