IF

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始まった中学生活。

それなりに充実してます!





IFシリーズ 4





――桜の季節が終わり木々に若々しい若葉が覆い茂り出した五月。
兼ねてから志望していたテニス部に無事に入部する事ができた柳蓮二には、週に二度テニスとはまた違う楽しみがあった。
部活終了後、制服に着替えた柳は、テニスバックから取り出した二冊の本を片手に、足早に図書室へと向かう。
図書室へ入ると、真っ直ぐにカウンターへと足を運んだ。
そこには、青みがかった銀髪を低い位置で括った少女が、パソコンに向かって黙々と作業をしていた。
彼女の名前はレイ=エーミス。学年首席の特待生で、その容姿も相まって新入生達の憧れの的になった少女だ。余談だが、同級生先輩問わず、在校生で彼女の隠れファンは結構いるとか。

「――あ、柳君。部活お疲れ様」

声をかけようか迷っていると、レイが肩越しに振り返って言った。しかしその両手は相変わらずキーボードを走っている。
よくそんな芸当ができるなと感心しながら、柳は脳内のレイのデータを更新した。

「ごめんね。ちょっとこれだけ済ませたいから、返却する本はカウンターに置いといて」

「わかった。では、借りる本を見繕ってくる」

「ん」

柳は頷きを返すと、本をレイの手の届く場所に置き、図書室の奥へと向かった。










――柳がレイと知り合ったのは、四月の半ばくらいだ。
部活の関係で昼休みに借りていた本を返せず、放課後練習の後に図書室へと駆け込んだのがきっかけだった。
その日、当番であったレイが丁度帰り支度を始めたタイミングだったので、ギリギリ間に合ったのだ。

「すまない。本を返却したいのだが」

「はい、大丈夫です。あ、本、借りていきますか?」

「……いいのか?」

「えぇ。構いませんよ」

「ありがとう、助かる」

レイは微笑んで頷くと、柳も笑みを返しながら返却する本を手渡すした。

「……もしかして、これの続編を借りますか?」

「? あぁ。そのつもりだが」

「なら、こちらにありますよ。丁度今日返却されて来たので」

言いながら、レイはカウンター奥にある返却済み棚から一冊の本を取り出した。

「これですよね?」

「あぁ。そうだ」

「それじゃあ、カードの記入をお願いします」


筆記用具を手渡された柳は、裏表紙の内側にある図書カードにクラスと名前を記入しレイに手渡す。
それを見たレイは目を見開いた。

「え、嘘。一年!?」

「……そうだが」

「ごめんなさい。落ち着いてるから先輩かと思って」

すまなそうに目尻を下げるレイを見て、柳はかぶりを振った。

「それは別に気にないが、君も似たようなものだろう。まぁ、学年主席の特待生ならわからなくもないが……」

「あはは、誉め言葉として受け取っておくよ」

レイは何とも言えない笑みを浮かべる。

「……ていうか、私ってそんなに有名なの?」

「知らないのか?帰国子女で容姿淡麗、おまけに成績優秀で、新入生や在校生の間では高嶺の花だと言われているぞ」

「うわ、それ初耳」

素で驚いたのか、レイは目を大きく見開いた。

「……あーでも私、こんな口調だし、結構ガサツな所があるよ?」

「そのようだな。データに加えておこう」

レイは眉を寄せた。

「データって、情報屋紛いな事でもするの?」

「いや、趣味だ。テニスにも応用できるからな」

「私はテニス部じゃないけど」

「いつどこでどのようなデータが必要になるのかわからないからな」

「確かに、備えあればなんとやらだけど……はい。返却は来週ね」

レイは柳と話をしながら、図書カードに判子を押してクラス別の管理ボックスにしまい、本を柳に手渡した。
柳も差し出された本を礼を言って受け取る。

「さて、そろそろ閉めるけど、大丈夫?」

「あぁ、すまない。長居をしてしまったな」

「いえいえ。――あ、私、火木の放課後が当番で、大体これくらいの時間まで作業してるから、昼休み時間無い時は帰りにおいでよ」

「そうだな。そうさせて貰えると助かる」

「了解。じゃあね、柳君」










――とまぁこういった経緯で、柳は図書室へ通うようになり、まだ知り合って一月足らずだが、それなりに仲の良い関係を築いていた。

「これを頼む」

「はいよ」

レイは記入された図書カードを受け取る。

「最近は忙しそうだが、何をやっているんだ?」

「書庫を含めた図書室の蔵書をデータベースに登録してるの。今後は図書カードでの管理じゃなくて、バーコード化して管理するんだってさ。今は、その為の土台作りかな」

柳は眉を寄せた。

「そういう事は、司書の仕事じゃないのか?」

「そうなんだけど、司書の先生、附属の高校も仕事兼務してるから、手が回んないだよ。だから、私に白羽の矢が立ったわけ」

「あぁそういえば、レイはパソコンが得意だったな」

「そういう事。パソコン部の活動も兼ねてるから、尚更しっかりやらないと」

レイは微苦笑を浮かべながら頷いた。




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