11/06の日記

18:43
人身事故
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手が、震えているのがわかった。
どうして、逃げてしまったんだろう。そして、どうして、戻ってきてしまったんだろう。
もう、見つけられなかった。さっきまでそこに居た、あの人。
怖かったからなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。

智世は気付いてもらえなかった悲しさより、気付かれなかった安堵を感じた、自分が嫌だった。あの日から変わっていないあの人と、私。変わってしまったのは、関係。繋がりがなくなったということだけ。

逃げた自分を責めた。
でも、追いかけなかった自分を褒めた。

脈拍があまりにも速いことに、智世は気付いて笑う。この速さは尋常じゃあない。

なぜか反対側ホームに居たあの人。どこへ向かうところだったのだろう。まだ、仕事中であったのだろうか。帰宅時間には、まだ早いだろうから。今週は忙しいと言っていたことを思い出す。そして、ついさっき見た本当に忙しそうだった、あの表情を思い出す。

智世の過去となって、堆積もしくは風化していく声、表情。そのすべてが、ただただ愛しい。

懐かしい駅を通過する、私一人で。ぜんぶぜんぶ、人身事故が悪いのだ。
人身事故さえなければ、私は友達と二人で直通運転で帰れたのに。この駅で降りて、あの人を一方的に見て、逃げることも、引き返すこともなかったのに…。

人身事故は嫌いだ。
なにもかもが、だめになる。

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