01 勘違いと忘れん坊
「チッ。小林のヤロー…ほんとに苦手だぜ」
担任の悪口をグチグチと言いながら、屋上への階段をダンダンと鳴らしながら上がっていく音がする。
バンッ!
「っ、はぁ」
扉の向こう側に広がる青空の開放感に思わず息が詰まる。
こんな晴れた日が嫌になるときもある。
──…はっ?
目を開くと思わず前方の光景に、さっきとは違う意味で息が詰まる。
自分の身長を少し超えるほどのフェンスに、見覚えのある1人の女子生徒がよじ登っている。
「おいっ!結花!!」
「へっ?うわっ!?」
結花という女子生徒の体がグラッと後ろに傾く。
「っ!」
「っぶねー…」
ぐらついた瞬間が走り出し、尻餅を着いた結花の肩を支えて膝を着く。
「〜〜っ。お前、何考えてんだよ!」
一息ついて声を荒げる。だが、支えられている結花はキョトンとした目で見上げている。
「…亮君、どうしたの?」
焦りの所為で息をぜーはーさせている俺とは逆に、苦笑いしながら目をぱちくりとさせている。
「…はっ?だって、おまっ、飛び降りようと…」
「えっ!?まさか!」
今度は吹き出すように笑顔を見せて笑いだす。
(はっ?んだよ。わかんねー。)
「あれ」
そう言って結花はよじ登っていたフェンスの上の方を指差す。
「ハン、カチ?」
「いきなり風吹いてきて飛んで引っかかっちゃった」
取ろうとしただけだよ?と言う結花に宍戸の強張った全身の力が抜けガクッと肩が下がる。
「うわっ!」
同時に支えていた結花の体も冷たい屋上のコンクリートの上に落ちる。
最後まで支えてよ、と結花に軽く睨まれたが、変な力が抜けた宍戸には関係ない。
「ビビらせんなよ」
頭を抱えて溜息を吐く。
「…んと。よくわかんないけどごめんね?」
ポンポンと肩を叩きながら結花は笑顔で、頭をかかえる宍戸を宥める。
「俺の方こそ悪ぃ。早とちった」
そう言って、がしがしと結花の頭を撫でる。
まったく、激ダサだな。
大きく息を吐くと、それと同時に強い風が屋上に吹く。
「…あっ!ハンカチ!」
今の風でフェンスに引っかかっていたハンカチが外れ、中庭の方にひらひらと舞っていった。
慌ててフェンスに寄ると、あとで探しに行こう。と結花は中庭を見下ろす。