05 怖いのもたまには
なんでこんなことになってしまったんだろう。
部活後に人気のない暗い廊下を怖ず怖ずと進んでいく。人がいるとしたら…私と目の前の彼。
いつものように帰ろうとしていたほんの数十分前を遡る。
***
「すみません宍戸さん。今日、瑞河をお借りします」
「あ?」
「え?」
駐輪場に亮君の自転車を取りに行ったとき、日吉君に声をかけられた。
「瑞河、例のアレだ」
「……アレ?」
…どれ?
「行くぞ」
「えっ、ちょっ。りょ、亮君明日ね!」
「お、おう」とどもった亮君の声を確認し、訳も分からず取りあえず日吉君について行ってみた。
「ねぇ!例のアレって?」
「…報道委員の調査“氷帝七不思議”に決まってるだろ」
***
この言葉を聞いて今に至る。
なにも部活帰りの遅い時間にやらなくでも…
「日吉君…こんな時間に学校の中いたら怒られるんじゃない?」
「大丈夫だ。許可はとってある」
「…そっか」
暗い廊下、教室…沈黙が流れる。普段過ごしている学校なのに、暗いとどうしても怖い。
日吉君が考えるミステリーと、私が考えるミステリーが全く違うみたい。今は私にとっては本当に肝試しと一緒である。
「日吉君、怖くないの?」
「…全く。何だ怖いのか?」
「こ、怖くない!」
私がそう言うと「ククッ」と意地悪く楽しそうに笑っているのが、後ろ姿からもよくわかる。
…帰りたい。
「まずはここだな」
「っ!」
ピタッと止まった日吉君の背中にぶつかりそうになりながらも“音楽室”と言うプレートを確認して体が強張る。
「ひ、日吉く「今更嫌だなんて無しだからな」」
その言葉に次に言おうとしたことをグッと堪える。
「意地悪…」
「今更だな」
「入るぞ」と言われ日吉君が躊躇いもなく扉を開ける。暗い音楽室には吹奏楽部が使っていたのだろう、譜面台や楽譜がちらほらと置いてある。
「日吉君?」
持っていたのであろう懐中電灯を音楽室のあちらこちらに向けて、ゆっくりと歩き回っている。
「……」
無言な彼が余計に怖い…
「…何もないか」
そう言ってベートーベンやバッハの肖像画を照らしていた懐中電灯を足元に下げた。
「何も…って?」
「前に言っただろ。音楽室の肖像画の目が動くのが基本だって」
「!」
まずは基本から攻めたというわけですか…。
そう言われてしまったら、例え何もなかったとしても肖像画が気になって壁半分から顔が上げられない。どうしよう。顔上げたら見下ろされてて、目が合った瞬間動けなくなって…それで、それで…
「…ぃ、おいっ瑞河」
「ひぁっ!!」
「っ!?」
ポンッと肩に置かれた日吉君の手にビクッと心臓が跳ねた。大きい声を出した所為で日吉君も私の肩から手を引く。
「わ、悪い」
「っはぁ…、ご、ごめんなさい。いきなり、びっくりして…」
心臓辺りに手を置いて、とりあえず呼吸を落ち着かせる。
「ククッ、じゃあ次行くぞ」
…えぇ?あの、今笑いました?
何だか楽しまれている気がするこの現状。
「次は理科室だな」
「……」
怖くて喋る気力すら起きなくて、変な肌寒さから自分の両腕を抱く。
ガラッと日吉君が理科室の扉を開けると、薬品や植物の独特な臭いが鼻につく。並んでいる試験管やアルコールランプが異様に不気味だ。
それに気にもせず日吉君が準備室に入っていく。
鍵、開いてたんだ…
1人にされるのも嫌だから、渋々と日吉君について行く。