08 守りたい存在
いや、きっと誰かのイタズラだ。
手紙と言った方が正しいのか、その紙の表裏を何度も見返すが、やはり差出人の名前はない。きっと下駄箱を間違えたのだろうと、自分自身に言い聞かせて手紙をポケットに戻した。
気にしない、気にしない──…
「ねぇ結花ちゃん。ここの解き方わかる?」
「え、あぁ。ここはね…」
うん。考えないようにしよう…
***
今日は1日中上の空だったのかも。何だかあっと言う間に放課後になっていた。
「おい、結花準備できてるのか?」
「若。あれ、長太郎君は?」
「鳳なら跡部さんに呼ばれてさっき出て行った」
「そうだったんだ」
はは、っと笑うと急に若が近くに寄り顔を覗き込んできて、ドキッと心臓が跳ねた。
「わ、わか」
「…体調でも悪いのか?」
眉間に軽くシワを寄せて心配そうに見てくる表情に、かぁっと頬が熱くなって、無言で首を横に振った。
無意識だろうけど顔が近いんです…!
「はぁ、ならいい。だけど…何かあったら言え」
そう言って、固まっている私から目線を逸らし「早くしろ」と、今度はぶっきらぼうに言う若に笑みがこぼれた。
若には何でもわかってしまうのだろうか…
あの手紙のことも言おうかと迷ったが、私の勘違いかもしれないという気持ちの方が大きかったから、まだ少しだけ黙っていよう。
あっ、そうだ。
「若、私洗濯物取りに行くから先に行ってていいよ」
「……」
「わか、」
何で無言になったの?
「…俺も行く」
「えっ、部活遅れるよ」
「少しくらい良い。どうせ部室の裏なんだろ?手伝う」
「ん、ありがとう」
それから足早に2人で部室に向かう。
「随分な量だな」
「昨日向日先輩が回収するの忘れてたんだって」
「全くあの人は…」
ブツブツ文句を言いながらも手際良く洗濯物を取り込んでいく。
「コレ、どこに持って行くんだ?」
「部室でいいよ。あとで片付けるから」
「わかった」
籠を両手に持って「行くぞ」と言う若の横に駆け寄って、お互い肩を並べ部室に戻った。
「チッ。…あの野郎、気にくわねぇ…」