15 どうしようもできない
「最後になるが…2週間後に控えた合宿だが、残念ながら青学は他の予定が入って来れなくなった。よって合宿は立海と2校のみで行う。以上だ」
休日練習のミーティング。跡部先輩が締めてそれを終えたのが、30分前のこと。みんなが練習しているのを記録にとりながら、ぽーっとコートを眺める。
「立海だけとなると何ややりにくいなぁ」
「フッ、まぁそう言うな」
立海、か。
この間会った丸井さんとか…切原君とか。
「はぁ…」
思わず溜息が出てしまった。会いたいかって言われたら、会いたくない方に気持ちが寄ってしまう。
切原君がどこまで本気で言ってくれたのかはっきりしていないのに、今の私は本当に失礼だ。
「暑いのか?」
「わっ」
「随分ぼーっとしてるな」
「ごめん、若」
視界に入るとこにいたのに全然気づかなかった。若の溜息のようなものが聞こえて、足元のカゴに入っているタオルを取り出して私の横に座った。
「…結花」
「何?」
「今コートに入ってるの鳳じゃなくて向日さんだ」
誰の記録をとってる、そう言われて手元を見るとハッとした。
「あ、あれ。書くとこ間違えちゃった」
あはは、と笑ってみせると、若の眉間にシワが寄った。
「若、ここに跡ついちゃうよ」
自分の眉間を指でさすりながら言ってみた。でも若は更に不機嫌そうに口を尖らせる。
「何かあったのか?」
若は私の心の中が見えてるのではないかと思うくらい、いつも絶妙なタイミングでこの言葉をかけてくる。
「なんでもないよ。それにしても暑いね」
なのにこんな言葉しか返せない。
「そういえば合宿は立海だけだってな」
更に心を読まれたかのようにそれを言われた瞬間、ドキリと心臓が跳ねた。
「…そうだね」
我ながら苦しい。
意識することなんて何もないのに、不安に似たモヤモヤが胸に溜まる。
「うわっ」
不自然に空を見上げていると、突然視界が真っ暗になった。
「暑いからな、熱中症になる前にそれでも被ってろ」
汗臭かったら悪いな。と言い残していく若の言葉に、真っ暗の原因は若のジャージだというのがわかった。
「ありがとう」
あと本当のこと言えなくてごめんね。若がコートに戻った後も、“ジャージ頭巾”と言われながら、お言葉に甘えてそのジャージを借りて仕事を続けた。